相手が確実に知っていること・わかっていることについて「きみは知らないかもしれないけれど」と前置きすることで、相手を皮肉ったり非難したりする ~映画「最強のふたり」の場合
◆概要
【相手が確実に知っていること・わかっていることについて「きみは知らないかもしれないけれど」と前置きすることで、相手を皮肉ったり非難したりする】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「最強のふたり」
▶1
本作の主人公は、フィリップ(60歳頃の男性)。
彼は頸髄損傷のせいで首から下を動かすことができない。考えたりしゃべったりすることは可能だが、食事や入浴、着替えなどは介護人のサポートなしには難しい。
いろいろあって、
・Step1:ドリスという新しい介護人を雇ったフィリップ。
・Step2:ドリスは人間的にはいいやつなのだが……何しろ介護の経験が皆無!また、性格的に雑なところがある。
というわけである日のこと。
・Step3:ドリスが言った「前から訊きたかったんだけど、あっちの方はできるの?どうなっているの?」「実際のところヤレるの?」。――性交はできるのか、射精はどうだという下世話な問いである。
・Step4:それに対してフィリップは言った「きみが知っているかどうかわからんがね、私は首の付け根からつま先までまったく感覚がないんだ」。
・Step5:ドリスがうなずく「できないのかぁ」。
▶2
ご注目いただきたいのは、「きみが知っているかどうかわからんがね、私は首の付け根からつま先までまったく感覚がないんだ」というフィリップのセリフである。
要するに「首の付け根からつま先までまったく感覚がないんだ。だから性交は難しい」という意味だが――ストレートにそう言ってしまっては面白くない。
そこで【相手が確実に知っていること・わかっていることについて「きみは知らないかもしれないけれど」と前置きすることで、相手を皮肉ったり非難したりする】という技法の出番だ。
改めてフィリップのセリフをご覧いただきたい。曰く「きみが知っているかどうかわからんがね、私は首の付け根からつま先までまったく感覚がないんだ」。
上述の通り、ドリスはフィリップの介護人である。フィリップが首から下の感覚を失っていることはもちろん知っている。当たり前だ。
フィリップだってそんなことは理解している。ところが彼は「きみが知っているかどうかわからんがね」とわざわざ前置きした――。
この結果、「きみはよくもまぁそんな下世話なことを質問できるよな」という嫌みがこもった愉快なセリフになったといえるだろう。