陰のヒーロー「調達屋」の描き方!!|『ショーシャンクの空に』に学ぶテクニック
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前回に引き続き、「ショーシャンクの空に」に【キャラの描き方】を学びます。
※「ショーシャンクの空に」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。
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レッドに注目!
前回は、主人公・アンディが初登場シーンでどのように描かれているかをチェックしました。
本記事では、「もう1人の主人公」とでも呼ぶべき重要キャラ・レッドの初登場シーンに注目します。
レッドの描写①
レッドが初めて登場するのは、映画開始から6分50秒経ったところ。「仮釈放委員会による面接シーン」(5人の委員が囚人と面接し、仮釈放させるべきか判定する)です。
まず、刑務官がドアが開け、レッドが部屋に入ります。
部屋の中には5人の男。彼らはスーツを着て、椅子に座っている。そして、レッドをじろじろと無遠慮に見つめる。
一方のレッド。彼は中年(50代後半頃?)の男性です。その表情は固い。顔がこわばっている。また、視線に落ち着きがない。まばたきも多い。さらに、手を体の前で組んだかと思いきや、すぐに背中で組み直す。……レッドは明らかに緊張しています。
レッドが着席し、早速面接が始まります。
委員が問う「終身刑で入って、既に20年だね?」。アンディがうなずく「はい、そうです」。
その後も委員の質問が続きます。レッドは「私は改心しました」「もう真人間です」と回答していく。終始真面目で、悪いヤツには見えません。
ところが、委員の判定は「仮釈放不可」!
鑑賞者が「えっ、『不可』なの!?何がダメだったの?」と首をかしげるシーンです。ちなみに、レッドが仮釈放を許されない理由が明かされるのは終盤になってから(映画開始から2時間6分経ったところ)なのですが……本記事ではこれ以上は追究しません。
ここで重要なのは、初登場シーンのレッドが「真面目」で、「やや気弱」に見えるということです。
レッドの描写②
レッドの行動をもう少し追いかけてみましょう。
「仮釈放不可」の判定後、レッドは部屋を出ます。
彼は帽子をかぶり直し、シャツの一番上のボタンを外す。そして空を見上げる。しかし、そこは高い塀に囲まれた刑務所の中です。画面に空は映りません。続いてレッドは俯く。その表情は暗い。そして1歩、2歩とゆっくり歩き出す。
真面目そうに見えるのに「仮釈放不可」の判定。さらに高い塀、そして暗い表情……。多くの鑑賞者が、「なんだか、かわいそうだなぁ」と感じるシーンです。
レッドの描写③
その後、レッドは庭に出ます。
「庭」といっても、学校の校庭のような広い空間です。そしておそらく自由時間なのでしょう。多くの囚人がダベったり、キャッチボールをしたりしてくつろいでいます。
レッドが庭に出ると、仲間と思しき2人の囚人が、すぐに声をかけてきました「よぉ、レッド。どうだった?」。レッドは肩をすくめる「残念賞さ」。
そしてレッドが歩き出す。囚人2人は、その後をついてきます(「2人の囚人を引き連れるレッド」という構図です)。彼らは庭のど真ん中を突っ切ります。
歩き始めて間もなく、別の囚人がアンディに声をかける「なぁ、タバコをくれよ」。レッドは軽くあしらいます「冗談じゃねぇよ。お前にはもう5箱もやっただろ」。
さて、多くの鑑賞者はここで気づくでしょう。どうやらこのレッドという男、刑務所内では顔役らしいぞ。
そしてむくむくと興味が湧き上がってくるはずです。ここまでの印象(「真面目」「気弱」「かわいそうな感じ」)からして、暴力的なキャラとは考えづらい。となると、はて。レッドは、どんな力を持っているのだろう?
……というところで、タイミングよくレッドのナレーションが入ります「ムショには調達屋が必ずいる。オレがそうだ。タバコやマリファナや、祝いの酒も調達できる。ほとんど何でも。オレはムションの通販屋だ」。
鑑賞者は得心が行く。なるほど、調達屋だったのか!そりゃカッコいいな!
このあとアンディが刑務所に到着し、やがて2人は出会うことになるのですが……それはさておいて。以上がレッドの初登場シーンです。
「まずは同情によって、鑑賞者の『関心』を惹く。その上でカッコいい一面を披露して、鑑賞者のハートを鷲掴みにする」というテクニック
さて、整理を始めましょう。
まず【描写①】【描写②】では、「真面目で気弱な印象」「『仮釈放不可』の判定」「高い塀」「暗い表情」といったところから、鑑賞者は「事情はよくわからぬが、なんだかかわいそうだなぁ」と同情心を抱くはずです。
つまり、前回ご紹介した「アンディの初登場シーン」と同じく、「同情によって、鑑賞者の『関心』を惹く」というテクニックが使われているのです。
しかしレッドの場合、これだけでは終わりません。続いて【描写③】。彼が刑務所内の顔役で、調達屋だと明かされるシーンです。
そう、調達屋!
「調達屋」という響きには、「裏の世界のスペシャリスト」というか、「スマートな仕事人」というか、端的に言って「中二心(厨二心)」をくすぐられるカッコよさがありますよね!
余談ですが、調達屋以外には「情報屋」(「デュラララ!!」の折原臨也など)あたりも「中二心」に響くキャラと言えそうです。
つまり、です。
以上をまとめると「まずは同情によって、鑑賞者の『関心』を惹く。その上でカッコいい一面を披露して、鑑賞者のハートを鷲掴みにする」。これがレッドの初登場シーンで使われているテクニックなのです。
かくして私たち鑑賞者は、ちょっとかわいそうで、しかしカッコいい男・レッドに興味を持ち、彼がこの先どうなるのかハラハラドキドキしながら、あるいはワクワクしながら画面を見つめることになります。
補論:「カッコいいキャラの初登場シーン」に使える2つのテクニック
ここまで申し上げてきたことを、別の角度から整理してみましょう。
そもそもレッドのような「調達屋」、あるいは「情報屋」、さらに「正義の味方」でも「名探偵」でもいいのですが……「カッコいいキャラの初登場シーン」というのは、なかなか難しいものです。
というのも、最初から「ジャーン!!オレ、正義の味方!超すげぇんだぜ!」という感じで登場すると、鼻につくと思うんですよ。
レッドもそうです。もしもいきなり「ムショには調達屋が必ずいる。オレがそうだ」というナレーションから始まっていたら、ちょっとキザで、嫌味な感じがすると思いませんか?
無論、「鼻につく = 鑑賞者から嫌われる」、「ちょっと嫌味な感じ = 鑑賞者からそっぽを向かれる」というわけではありません。
しかし、少なくともプラスにはならない。ゆえに、できることなら「嫌味のない登場シーン」を目指すべきでしょう。では、どうすれば実現できるのでしょうか?
そこで、参考になるのがレッド!彼の初登場シーンには、2つのテクニックが使用されています。
第1に、「カッコいいところを見せる前に、情けない姿を披露する」というテクニック。
私たちは最初に「仮釈放委員会による面接シーン」の真面目で、やや気弱な印象のレッドを目にします。その上で、彼が調達屋だと明かされる。
つまり彼の情けない姿を知っているため、嫌味っぽく感じないのです。
普段は三枚目キャラだが、いざという時には素晴らしい働きを見せる。だからどれほど活躍しても嫌味がない……これは多くのヒーローもの作品に見られるテクニックなので、みなさんお馴染みかと思います。
そして第2に、「鑑賞者の疑問に答えるという形で、正体を明かす」というテクニック。
【描写③】を思い出してください。まず私たちは、囚人仲間との関係を通じて、「どうやらこのレッドという男は、刑務所内では顔役らしいぞ」と察する。次いで、興味が湧き上がってくる「彼は何者なのだろう?」「どんな力を持っているのだろう?」。そしてこの疑問に答える形で、「ムショには調達屋が必ずいる。オレがそうだ」というナレーションが入る……これがポイントです。
単なる自分語りなら鼻につくところですが、「まずは鑑賞者が疑問を抱くように仕向ける → それに答える」というステップを踏むことで、嫌味っぽさが薄まっているのです。
俗っぽい例で恐縮ですが……「オレ、100点だったぜ!」と自慢するヤツは腹立たしいものです。横っ面を引っ叩いてやりたい。しかし、誰かに「何点だった?」と訊かれ、それに「100点だったよ」と答えるなら、まぁ嫌味な感じはしない。まさにこれです。
以上2つのテクニックを使うことで、「カッコいいキャラの初登場シーン」を嫌味なく描くことができるでしょう。
よろしければ参考にしてくださいねー!!
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(担当:三葉)