「敵に拘束されたスパイが言った『トイレに連れて行ってほしい』。トイレに行く途中、もしくはトイレで隙を見つけて脱出を図るつもりだろう→……と思いきや、普通に排尿して普通に戻ってきた。単にトイレに行きたかっただけらしい」という展開で読者・鑑賞者を驚かせ、興味を引きつける ~アニメ「Lv1魔王とワンルーム勇者」の場合
◆概要
【「敵に拘束されたスパイが言った『トイレに連れて行ってほしい』。トイレに行く途中、もしくはトイレで隙を見つけて脱出を図るつもりだろう→……と思いきや、普通に排尿して普通に戻ってきた。単にトイレに行きたかっただけらしい」という展開で読者・鑑賞者を驚かせ、興味を引きつける】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。
◆事例研究
◇事例:アニメ「Lv1魔王とワンルーム勇者」(第7話)
▶1
本作の主要キャラの1人・ゼニア。
彼女は魔族の一員であり、魔王の秘書官を務めている。
魔王の側近というのだから相当のエリートなのだろうが――しかし、彼女はかなりのポンコツキャラである。
いろいろあってある日、
・Step1:人間の国「ベスカー王国」の国家機関である「魔導庁」に潜入したゼニア。
・Step2:彼女は機密情報を盗み出そうとするが――あっという間に捕まってしまった。さすがはポンコツ魔族である。
・Step3:人間たちは、手枷・足枷を使ってゼニアを拘束した。そして、ひとまずはリム(魔導庁の女性官僚)が監視を担当することになった。
ゼニアは心の中で嘆いた「ううっ、何たる不覚……」。
・Step4:そして考えた「どうにかして脱出しなければ!」。
間もなく、
・Step5:ゼニアは体を小さく揺すり始めた。もじもじもじもじ……。彼女は言った「あっ、あの……」「トッ、トイレに行きたいのですが……」。
・Step6:リンがうなずく。トイレか。まぁ仕方あるまい。
・Step7:というわけでリンは、ゼニアをキャスター付きの椅子に乗せてトイレまで運んでやった(足枷が付いているためゼニアは自力で歩けないのだ)。
・Step8:さらにリンはゼニアを便器に座らせ、服も脱がせてやった。――まるでヘルパーである。
・Step9:リンがぼやいた「まったく。これに懲りたらもう不法侵入なんてしないでくださいよ」。ゼニアは肩をすくめる「面目ないです……」。
で、排尿後。
・Step10:リンは、ゼニアを再び椅子に乗せて元の部屋まで運んでやった。
・Step11:一方のゼニア。彼女はすっきりした表情で改めて考え始めた「さーて、どうやって脱出しようかな」。
▶2
ご注目いただきたいのは、Step5である。
「あっ、あの……」「トッ、トイレに行きたいのですが……」とゼニアが言った時、多くの鑑賞者はピンと来たに違いない。「なるほど!移動中か、もしくはトイレで隙を見つけて脱出を試みようというわけだな」と。
ところが――そうではなかった。
ゼニアは普通にトイレに行って、普通に排尿して、普通に戻ってきてしまった。
「隙を見つけて脱出しようという作戦じゃなかったのかよ!(笑)」「ただトイレに行きたかっただけかよ!(笑)」「さすがはポンコツ魔族(笑)」と驚き、思わず噴き出してしまった鑑賞者は少なくないだろう。
予想を裏切るこの展開がいい。
この先何が起こるのか先読みできず、かくして鑑賞者の目は画面に釘づけになるだろう……!
つまり、【「敵に拘束されたスパイが言った『トイレに連れて行ってほしい』。トイレに行く途中、もしくはトイレで隙を見つけて脱出を図るつもりだろう→……と思いきや、普通に排尿して普通に戻ってきた。単にトイレに行きたかっただけらしい」という展開で読者・鑑賞者を驚かせ、興味を引きつける】というテクニックである。