そのキャラ・その作品ならではのユニークな比喩を使う ~映画「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-01【口裂け女捕獲作戦】」の場合
◆概要
【そのキャラ・その作品ならではのユニークな比喩を使う】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-01【口裂け女捕獲作戦】」
▶1
本作の主人公は、工藤(30代頃の男性)。
彼は映像制作会社のディレクターである。しかし、その言動はほとんどヤクザかチンピラ。かなり短気で暴力的な男だ。
いろいろあってある日、
・Step1:「本物の口裂け女が出た!」という情報をキャッチした工藤。
・Step2:彼は考えた「よーし、口裂け女を捕獲しよう。その一部始終を撮影すれば大儲けできるぞ!」。
・Step3:かくして彼は、市川(工藤の部下、20代女性)とともに目撃者から話を聞くなど調査を進めた。
やがて必要な情報はそろった。
・Step4:工藤と市川は口裂け女を捕まえるべく、いよいよ張り込みを開始した。
・Step5:口裂け女は必ず現れる!工藤は確信していた。……しかしどうしたことだろうか、なかなか姿を見せない。
で、張り込み6日目(!)。
・Step6:市川はすっかり疲れきった感じで「……こんなことやって採算取れるんですか?」。
・Step7:工藤もさすがに弱気になっているようだ。彼はつぶやいた「んー……そうだよなぁ。そろそろ出てきてくれないとなぁ……」。
・Step8:が、すぐにいつもの調子に戻ると「まぁ、バクチだな!振った賽の目出るまで賭場出れないだろ?なぁ?」。
※補足:「振った賽の目出るまで賭場出れないだろ?」というセリフは、ヤクザ映画や「カイジ」シリーズでお馴染みのチンチロリンを想起すると理解しやすいと思う。すなわち、「賽(サイコロ)を一度振った以上、たとえ敗色濃厚であろうとも賽の目(バクチの結果)を見ずには賭場を出るわけにはいかねぇ。負けるなら負けるでしっかり負けてやるぜ」という意味であろう。
・Step9:いやまぁそうかもしれないけど……。市川は声にならない声を漏らした「んー……」。
▶2
ご注目いただきたいのは、「まぁ、バクチだな!振った賽の目出るまで賭場出れないだろ?なぁ?」という工藤のセリフである。
要するに「ここまで来たらもう引けねーよ。一か八かで張り込み続行だ!」という意味だが――ストレートにそう言ってしまっては面白みを欠く。
そこで【そのキャラ・その作品ならではのユニークな比喩を使う】という技法の出番だ。
改めて工藤のセリフをご覧いただきたい。
「まぁ、バクチだな!振った賽の目出るまで賭場出れないだろ?なぁ?」。
21世紀の日本で、こんな比喩がするする出てくるキャラが工藤以外にいるだろうか。「バクチだな!」はまだわかる。ここまではいいとしよう。しかし「振った賽の目出るまで賭場出れないだろ?」って、お前はいつの時代のヤクザだ!?一体どんな人生を歩めばこんなセリフを吐けるんだ!?
というわけで、「ここまで来たらもう引けねーよ。一か八かで張り込み続行だ!」を「まぁ、バクチだな!振った賽の目出るまで賭場出れないだろ?なぁ?」に置き換えたことで、大変にユニークで印象的なセリフになったといえるだろう。また、工藤というキャラにそれまで以上に興味関心を抱き、物語に惹きつけられた鑑賞者は少なくないと思う。