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変な帽子と使い捨てカメラ
山野の一件で店のGI帽の格好悪さを再認識し、自分でもこの帽子を使って何かバカなことができないかと考え始めた。と云ってまさかエジプトへ行くわけにはいかない。行ったところで、二番煎じなのでつまらない。
何かいいネタがないかと思う間に年の暮れへ差し掛かり、世の中が何だかわくわくし始めた。それで、大晦日の閉店後に店のスタッフと徹夜麻雀をやることにした。
元旦も朝から仕事なのに、全体誰がそんなバカなことを云い出したものか、改めて考えるとどうも自分だったようである。
ある時佐藤が、閉店後にバイトと町田の麻雀屋で遊んんだ話をした。夜明けに店主が梅昆布茶を出してくれたのだと云う。随分楽しそうに話すのを聞いて、自分も行きたくなった。
「俺も行きたいじゃぁないか。今度、大晦日に店閉めてから行こう」
「いいですよ。行きましょう」
「どうせ行くなら普通じゃつまらん。ずっとこの帽子をかぶってやるのはどうかね?」
佐藤は「いいですねぇ」と言ってニヤニヤした。
大晦日は果たしてあんまりお客が来なかったので、日付が変わる前に蕎麦を茹でてみんなで食った。
それから時間通りに閉店して、全員私服に着替え、例の帽子をかぶって出発した。
麻雀屋は町田駅前のビルの中である。元旦の未明に四人で変な帽子をかぶり、町田駅前を歩いた。
せっかくだから記念写真を撮ろうと思った。まだガラケーが普及し始めた当時のことだから、写真を撮るにはカメラがいる。それで、じゃんけんで負けた者が帽子をかぶったまま一人でコンビニへ入って、『写ルンです』を買って来るということになった。これも誰が云い出したかと考えたら自分であった。
その取り決めでじゃんけんをしたら、自分が負けた。
仕方がないからそのまま店へ入ったけれど、どうも写ルンですが見当たらない。外では三人が身体をくの字に折って笑っている。
店の人に訊くのはさすがに恥ずかしく、諦めて出たから写真は撮っていない。今になって、もったいなかったように思う。
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