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闇に葬る
小学校の時分、クラス替えは二年毎だったから、三年生と四年生は同じクラスのままだった。
小三の担任のロバ先生は依怙贔屓ばかりする婆さんで、担任だけは他の先生に代わってもらいたかったけれど、どういうわけか自分のクラスだけが同じ担任で続投となった。
始業式で愕然としているところへ、隣のクラスの国村が「三組、可哀想に」と呟いた。他から見てもやっぱり可哀想なのかといよいよどんよりしたけれど、ロバ先生はじきに病を得て、一学期の途中から療養に入った。
代理担任の高橋先生は普通の先生だったので、随分安堵した。
そうしてロバ先生は、とうとう最後まで出て来なかった。
三学期に文集を作るので、先生から用紙を配られた。それに一年間の振り返りのようなことを書いて提出するのである。
自分はやっぱりロバ先生が出て来なくて良かったということしか浮かばない。さすがに「出て来なくて良かった」とは書けないから、ロバ先生とは合わない、担任続投に最初はどんよりしたが、結局高橋先生に見てもらうことになったのは良かった、というようなことを書いておいた。
するとじきに呼び出しを受けた。
「百君、これはいけんよ。書き直しんさい」先生は何だか困った顔で自分の作文を突き返す。「先生のクラスで良かったです、って書かんと」
これは笑っていたから冗談だろうが、そんな嘘は書けるものではない。困っている横で、松岡が覗き込んでにやにやした。
「ふふっ、ここにもロバ先生のことが書いてある。あ、ここにも。ははは」
「先生、合わんとかどんよりしたとかは高橋先生のことじゃなくて、ロバ先生のことですよ」
一応弁明したが、「これはダメです。書き直しんさい」と却下された。
何なら高橋先生のことは持ち上げているのにどうしてこんなことを云われるものか、どうにも得心がいかない。しかしダメだと云われてはしようがない。結局、何だか別のことを書いて出した。何を書いたかはもう忘れた。
今になって考えると、出来上がった文集はロバ先生にも見せるはずで、そこへ「ロバ先生にはどんよりした、高橋先生に代わって良かった」などと書いてあれば、それは先生も困るのに違いないと思う。
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