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「僕は、これまでの人生と決別する」
桜舞い散る中、ビラを片手に、僕は部屋に入った。
明るく振る舞う者、とにかく自分自慢をする者、媚びへつらう者。
猛者たちが集いし場所。
それが、『テニスサークル』。
彼女いない歴=年齢から脱却し、大人の男になる。
もちろん、算段はある。
それは、運動神経。
バスケ部を6年間(補欠)。
小学校4年でリレー選手。
こんなもやしっこ達に、負けることはない。
見える、見えるぞ。
すぐにテニスがうまくなって、
黄色い声援を浴びる僕の姿が。
「ようこそ、アプラスターへ」
先輩らしき人が、ドリンクを渡してくれた。
その瞬間、ぼくは背中に冷たいものを感じた。
そっと振り返ると女の子がうずくまっていた。
「ごめんなさい」
僕の背中に盛大に烏龍茶がかかっていた。
顔を上げた彼女の顔が脳裏を焦がす。
キナリ色のワンピースに、丸い眼鏡、ストンと流れる黒髪。
潤んだ瞳で僕を見つめてくる。
「いや、いいですよ、これ安物なので」
「友達に誘われて来たけど、慣れなくて…」
「じゃ、じゃあ同じ1年ですね」
「え、そうなんですか」
「僕は山田っていいます、心理学部です」
「あ、私は英文学部の高山っていいます」
「心を読まれちゃってますか?」
「いや、そんなことできないですよ」
連絡先を交換し、お昼の約束をした。
「という感じで、選択肢が多いと選べないんだ」
「心理学って面白いね」
ご飯の合間に、高田さんに心理学のことを教えていた。
「また、心理学を教えてほしいな」
「お安い御用だよ、あ、そうだ、ジャーン」
ほぼ白くなったシャツを披露した。
「よかった、きれいになった…かな?ほんのり茶色い…」
「逆におしゃれになったよ」
「ありがとう、じゃあ来週もこの場所で会おうね」
この関係を一生のものにしたい。
時が経ち、セミがけたたましく鳴いている日ー
合宿で田舎の民宿に向かった。
テニスを早々に切り上げて、BBQを楽しんだ。
「よっしゃー花火やろうぜ」
花火に明かりに照らされる高山さんはとてもきれいだった。
「君たち、そこで何をしてるんだ?」
馬鹿騒ぎしていたので、近所の人が通報したらしい。
「やばい、逃げろ」
「高山さん、こっちに逃げよう」
呆然とする彼女の手を取り、茂みへ走り出す。
森を抜けると公園があった。僕らは息をひそめた。
……
…………
あれ、手っていつ離せばいいんだろう。
でも離したくはない。もう少しだけ。
ピロピ ピロピ
彼女のスマホが鳴った。
「ごめんね」
そう言うと、手を離して話しはじめた。
「あ、美紀。うん、大丈夫だよ」
「そう、山田くんと一緒。わかった民宿に戻るね」
帰り道、僕の手は泳いでいた。
正直、もう一度手をつなぎたい。
「何か考え事?」
「え」「なんにも話さないから」
手のことばかり考えてしまった。
その夜、布団に入ってから、右手のぬくもりを思い出した。
事件は秋に起こった。
文化祭の出し物で高山さんと口論になってしまった。
僕のことを理解してると勘違いしていた。
そこから、サークルに足が向かなくなった。
気がつけば、黒いコートで駅が埋まっていた。
僕は背伸びして、バーでバイトをしはじめた。
ある日、大学生の団体が来た。
最後尾に高山さんがいた。
「あれ、山田くん?久しぶりだね」
バッグがブランドものになっていてた。
「高山さん、サークルはどう?」
「最近、行ってないんだ、山田くんも来ないし」
その瞬間、ぼくは背中に冷たいものを感じた。
そこで、僕は現実に戻った。
「この後、こうなったらいいなぁ」

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