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雨の日には冷えたスプーンを一青春はいつも忘れた頃にやってくる一

久しぶりにイヤホンで音楽を聴いた。
有線ではなく、初めて、無線のイヤホンで。


有線のイヤホンを見かけると、学生時代を思い出す。その頃は、折りたたみ式のパカパカ携帯だったから、音楽は聞けなかった。

カセットテープ、MD、CDプレイヤー
そしてウォークマンの登場である。

音楽なんてザクザクと聞けない時で、マゼンダ色のウォークマンで、レンタルCDを借りて、コツコツお気に入りを増やしていた。

あの頃は、学校が終わると迷わずに有線のイヤホンで「音楽」を聴いた。
クラスメイトと話すのが、何処となく煩わしかった。

そう、懐かしや、思春期である。

aiko、椎名林檎、東京事変、秦基博、ユーミン、JUJU、ドリカム、宇多田ヒカル、RADWIMPS、ラルク、小野リサ等等。

洋楽やジャズ、クラシックを聴いているクラスメイトがいれば、やだ、背伸びしちゃって、なんて思いつつも、家でこっそり真似っこしていた。

1人が得意で、1人でいることが苦じゃなかった。

特に孤独感もなく、有線のイヤホンをつけた瞬間、自分だけの膜が出来て、無敵になれた気がしていた。雨風も吹き飛ばすほどに。

有線のイヤホンがあれば、どんなに惨めな夜でも、お気に入りの靴を履いて、胸を張って闊歩できた。

久しぶりにイヤホンで音楽を聴いた。
有線ではなく、初めて、無線のイヤホンで。
それも、最新式のiPhoneで。


無線のイヤホンは、自分の心臓の音まで
くっきりと線を描くように流れてきた。

なんだか、とびきり寂しくて
まるっきり孤独になったみたいで

気がつけば、とつとつ泣いていた。


大人になってからのイヤホンは
無敵の世界を作ってはくれなかった。

理由は分からない。

有線のイヤホンが
2人で聴き合いっこできるからなのか。

おやおや

手のひらサイズの無線のイヤホンを外した瞬間
子どもの寝息、家族の会話、遠くで鳴いている犬の遠吠え、お湯が沸く音…

世界を彩る数々がスーッと心地よく入ってきた。
安心できる、日常の声たち。

ああ、そうか。

無線のイヤホンは
まるっきりの1人になるからなのか。


私と、その「音」だけの世界
くっきりと切り離される



人並みに生きてきたけれど、「音楽」以外に聴きたい声、色、光、が抱えきれないほどに増えたからなのだと。

有線のイヤホン
無線のイヤホン

いつのまにか、自分だけの膜から抜け出して
多くの「音」と仲良くなれたことを知った。
1人よりも楽しいことがたくさんあることも


それでも、たまには1人に浸りたい夜がある。
あの子の好きな曲、一体何だったんだろう。

ちょうど良い距離感
もう、iPhoneだけど

やっぱり、有線が好きだなと
じんわり想う夜だ。

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