アニメ「蟲師」
派手さはないが、一定の人気を集めているアニメに「蟲師」という作品がある。確か、映画にもなっているはずだ。
ジャンル的には「伝奇」とでも言うのだろうか?
バトルもないし、ミステリーでもスリラーでもない。エロもエッチも皆無だし、笑いもなければ、特別泣かせるでもない。ガキが喜びそうな要素は皆無の、完全に「大人向け」のアニメである。
時代背景は……江戸から明治にかけての、架空の時空なのだろう。主人公以外、コスチュームは着物であり、風景も水墨画に水彩を流し込んだような、なかなか味わい深い田舎の山林が中心となる。
画風も自然かつ素朴で、大げさな表情が踊るでもない。
なんとなく、NHKあたりで放映していそうな、自然相手のドキュメンタリーというふぜいもあるが、オープニング曲の 、スコットランド出身のシンガーソングライターAlly Kerrの歌う「The Sore Feet Song 」が流れ出すと、妙にゾクッとしてくるのも事実である。
主人公である「ギンコ」という「蟲師」の男が、旅をしながら、「蟲」と総称される、生き物によって引き起こされる様々な事象に遭遇し、これに対処してゆく話である。
ネタバレになるので仔細は省くが、要は人や自然に起こる、なかなか理屈では説明できない出来事を、総じて「蟲」の仕業と断じて対処してゆくのだ。
正しく人知の及ばない奇っ怪な出来事も混じるが……あんがい民族学の世界でお目にかかりそうな、「ありそうで、ありえない」世界を、ちょっと誇張しているのかも知れない。
思えば、日本には「虫」を使った表現が多々あったはずである。
虫の知らせ。虫がすかない。塞ぎの虫。点取り虫。
虫がつく……とか、浮気の虫……なんて言い草もある。
仕事をしていれば……始終出くわしそうなのが、「腹の虫がおさまらない」という奴だろう。
まあ、特に日本人が……とは思わないが、「虫」を介在させることによって、精神と肉体にほどよい距離を保っているように思えるのだ。
ふと考えるに……近頃は「腹の虫……」などと若い人の言葉としてはあまり聞かず、いっそ直截に「頭に来た」あるいは「キレる」と吐き捨てる方が多いように思う。
どうもこの言いかたには、「頭のコンピュータが加熱した」「配線が切れた」というイメージを感じてしまうのだ。
そう。全ての問題は頭脳というコンピュータをもって解決できる信じ切った人間の、いっそ投げやりな表現のように感じられる。
僕の持論ではあるが、頭脳だけが「考え」ているわけではないと思うのだ。
伝統芸能が身体の「型」から入り、頭脳とは別の思考形態をもって、本来の頭脳とフィードバックしているように……人間とは、精神と肉体の全ての器官をフル動員して「考える」ことができる生き物ではないのだろうか?
そう考えて見ると、「蟲」というモノは、その仲介を果たす……大きなククリでのニューロン的存在とも思えてくる。
ふと思い出すに、コンピュータの世界でも、不具合をひっくるめて「バグ(bug)」と言う。そう。「bug」とは「蟲」という意味だろう。
どうだろうか? 頭のコンピュータの不具合を「頭に来た!」と思考停止に追い込むよりも、「頭の蟲が……」的な言い回しをした方が、フリーズからの脱却は早いような気もするのだが……