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愛煙家の言い分

 かくも暑いと、イライラする。イライラすると、つい煙草の本数が増える。暑いとほざいておきながら、わざわざ熱い有毒ガスを吸い込んでいるのだから、愛煙家という奴、始末に負えない。

 いずれにしても、暑さに係らずイライラすると、ついつい煙草に手が伸びる。
 パソの調子が悪いので再起動したはいいが、なかなか復帰しない時。必要な書類がなかなか見つからない時。絡んだコードを解いている時。パンパンになったゴミの袋が、うまく結べない時。洗濯物を干している時、靴下が裏返しになっている時……

 その他にも、イライラすることは山ほどある。

 報道とは名ばかりの温いニュースを見ていても、能無しタレントの殆ど笑えもしないバラエティー番組を見ている時も……と、言っておきながら、そんなテレビを付けっ放しにしている自分に対しても、……イライラして、叉煙草に手が伸びる。

 思えば、僕が煙草を喫するようになったのは中学の頃かと思う。愛煙家の家族がいたこともあって……ニコチンのニオイを日常として育ったのだから……高校時代などは、不良を気取った学友がトイレで喫煙しているのを横目に、苦笑したものであった。
 元来父親もいないし、お袋は働きに出ているのだから、学校でビクビク吸わなくても、家に戻れば堂々と喫煙できたのだから……

 それでも、煙草が本当に「美味い」と思えるようになったのは大学に入ってからだろう。jazzの演奏で、自分のソロが終わったあと、仲間のトランペットを聴きながらの一服。ツンデレ彼女と鎌倉でデートした時の、茶屋での一服。彼女も煙草を嗜む口だったので……キスの時、ニコチン臭いと嫌われないだろうと、ニンマリしたものであった。

 煙草の害毒ばかり叫ばれる昨今ではあるが……喫煙家としては言い分がないでもない。
 と言っても、ニコチンの若干の鎮静作用とか……そんな意味ではない。

 僕は、煙草というのは「煙を吸う」のではなく「時間を吸う」……もっと突き詰めて言えば、「時間を味わう」ものだと信じている。
 jazzの時も、ツンデレ彼女とのデートの時も、僕は確かに一本の煙草の中に封印されている、「幸せ」という時間を味わっていたのだろう。

 にもかかわらず、最近の僕は、「時間を味わう」ためにではなく、「時間を潰す」ために煙草を吸ってるのかも知れない。
 そう。イライラする時間を、手っ取り早く、早急に燃焼し尽くしたいがために、「時間」に火を点けるのだ。
 其れゆえだろう、そんな時の一服は、たぶん一分も要しない。

 これでは、身体どころか、精神にとってもなんら益はなさそうだ。

 已んぬる哉、煙草に失礼だろう。

 そう。煙草とはイライラとは真逆の、心穏やかに落ち着き、幸せを噛みしめたい時……その時間をゆっっくり、ゆったり……かつ、ゆるやかに……味わうために吸うものではないか。

 たぶん、今の僕にとってそれが可能なのは、夜、1杯ひっかけつつのアニメ鑑賞に違いない。

 それにしても、子供も見るだろうアニメだと言うに……煙草を吸うキャラが頻出するのはなぜだろうか?
 一服しながら、考えてみたいものである……

 

貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。