感銘を受けた三冊の本
note仲間の、山根様のお題で、「愛読書で自己紹介」
感銘を受けた本、三冊ということだが……ジャンル不問だと、なかなか三冊には納まりそうにない。
ついては、文学に絞ることにしたい。
一つ……安部公房の「箱男」
面白いという意味でなら、「密会」を愛するが、この「箱男」は、僕が小説を書く上での、大きな切っ掛けともなった記念すべき作である。
特別ブッキッシュな人間であったわけでもなく、それでも絵画に挫折したエネルギーを文学に転じようとしていた折り……僕自身、当初、小説といえば康成だろう的な、ステレオタイプの観念しかなく、ついては当の康成の短編を、なんと品詞分解しながら読むという、とんでもない勉強をしていたのだ。
当然、かなり保守的な意味で、小説とはこんなものだろう……という常識に縛られていたのだが、公房の「箱男」を読み、まさにカルチャーショックであった。
文学とはかくも自由……かくもなんでもありなのだと悟ったしだいである。
ただし、この前衛性……追従者がとんと現れないのは、たぶんjazzに於けるコルトレーンのー「Ascension」に似ているのかも知れないが……
次には、精神的エコルを安部公房と同じくする石川淳の、「狂風記」だろうか。
ペンと共に書く……その意気込みは凄まじく、……と同時に独自の文体には当てられ、一時はまさにパクりに終始したこともあった。それだけで、翼を得たような気分になり、いっさいの構成を無視して、イメージの赴くままに綴るという、文学的陶酔を味わうことが出来た。
もとより、石川淳の呪縛から抜けなくては、自らの文学を綴れないと悟ったものの、これはかなり困難な作業で……たぶん、今の僕の文章にも、幾許かは影響は残っていると思う。
最後は外国文学だが、ノーベル賞作家でもあるガルシア・マルケスの「百年の孤独」に止めである。
おそらく、二十世紀最大の文学の金字塔と信じて疑わない。
日本では、ゴールディングの「蝿の王」あたりの方が人気らしいが、僕はかかるデジタル文学を好まない。
対して、マルケスは疑いも無く右脳アナログ作家である。
アンチ・ロマンが云々の折り……マルケスは骨太な大上段に構えた「物語」を書き切っているのだ。しかも、常識的現象などにはいっさい拘らず、想像力の世界にこそリアルがあるのだと教えてくれたのだ。
以上が感銘を受けた三冊である。
カフカはどうした、と言われそうだが……上記三人にも確実に通底している精神はあるばずである。