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お巡りさん

 4、5年前のことだが……連続して二度、「職質」を受けたことがあった。

 当時は「マンバンヘア」に「髭面」だったので……かなり人相が悪く映ったのかも知れない。
 とにかく駅の改札を抜け、そのままバイト先に向かおうとしたのだが……不意に寄ってきた二人の警官に挟まれ、人込みから引き摺り出されたというけはいであった。
 バッグをかき回され、身分証明書を求められ……仕事で使うチャチなナイフを見付け出すと、刃渡りを測られたり……仕事先を訊かれたり……あたりからブツケられる視線も、まさに犯罪者そのままであった。

 聞けば、一度目は……ナイフを振り回した凶悪犯に、二度目は麻薬の売人の見立てであった。

 実は……警官というか、まあ愛称としての「お巡りさん」に対して、一部の人達とは違って、そこそこの愛着を抱いていただけに……かなりショックだったことは否めない。

 と言うのも……お袋が若い頃、しばらく「警視庁」に勤めていたことがあったのだ。まあ事務の分野だったのだろうが……別に自慢するつもりもないが、後、「新国劇の女優」を経験しただけあって、そこそこ「美人」だったのだろうか……それなりにチヤホヤされたらしいフシが窺える。

 ついては、「お巡りさんは家族」という教えを僕は幼い頃受けていたようだ。
  
 ぼんやり覚えているのだが……冬、石油ストーブの消火が出来なくなり、困った果てに、なんとお袋が近くの交番に行って、お巡りさんを連れてきたのだ。

 ストーブが消えないので、消して! 

 と、でも頼み込んだのだろうか。

 とにかく、本当に来てくれたので……まさに家族さながら、優しいお巡りさんであった。
 とににかく、火の点いたままのストーブを抱えて表に出、結局は口でふき消してくれたのだ。
 他にも、僕が産まれるずっと前だったのか……死んだ飼い犬の処理を、これまたお巡りさんに相談し……かなり昔という事情もあったのだろうが……なんと、近場の公園に埋める許可までもらったらしい。今では考えられないが……実は当の公園の、ワンちゃんが埋まっている所は、現在では綺麗な花壇になったいるのだ!

 そんなこともあってか……バイトの行き帰りなど、通り過ぎの交番の、顔見知りのお巡りさんには軽く挨拶したり……いつだったか、交通整理の婦人警官の鮮やかな踊るような身動きに拍手を送って、照れ臭がられたりと……あんがい親密な関係でもあった。

 それが、先の「職質」であった。

 以来……どうしても構えてしまうのだ。

 しかし……考えてみると……僕の頭の中など覗かれたら……たぶん「職質」程度では済まなくなるかも知れないが……

  そうでなくとも……マイナカードの強制等に於て……国は、個人の頭の中まで覗こうとする策謀を、ジワジワと進めているのだ。

 態度や身なりだけではなく……頭の中を透かし見ての、「職質」などの時代の来ないことを、切に祈りたいものである。

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銀騎士カート
貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。