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エロスの目覚め その1
ハッキリ言って、僕としては全く興味はないのだが……パソコンやスマホを操れば、容易に露骨なポルノは閲覧出来るだろう。
道学先生なら顔を顰めるだろうが……いっそ性の開放は、自然の流れだと肯定する向きもありそうである。
今の子供達にとって、性の衝動、エロスへの目覚めは……いっそリアルな現実そのものなのかも知れない。
しかし、僕が子供の頃……エロスへの衝動は神秘そのものであった。生殖と結びつくという、当然の事実すら曖昧であり、何やら悪魔的な、それでいて天使の囁きにもにた甘美な香りすら感じたものである。
実際の所、子供の僕は女体のカラクリすら皆目だったし、生理や出産なんか考えたことすらない。
もちろん、ごく幼い時分ではあるが……赤子は排便と一緒にトイレで産まれると本気で信じていたのだから……
そんな僕ではあったが……小学校も高学年になると、エロスは少しづつ、現実味を帯びてくる。しかし当時の僕には、……当然、スマホもパソコンもないのだから……具体的なイメージを掴むことは叶わない。
当然、それなりの学術書や、興味本位のエロ雑誌などがあることは知っていたが、小学生の身とあって、手に入れるは難しい。
加えて、我が家は案外「性」に於ては保守的な所があったのだ。
こんな記憶がある。
小学校の低学年の頃だが、僕はクラスメイトから初めて「スケベ」という言葉を聞き知った。今なら、幼稚園児でも使いそうではあるが……当時の僕としては新奇な語彙でもあり、何やら不穏なイメージでもあった。
ついては、僕は何の配慮もなく、同居していた叔父に面と向かって「スケベ!」と吐き捨てたのだ。
とたん、叔父は形相凄まじく、かく僕を非難したのだ。
「カート。スケベとは『どろぼう』のことなんだぞ。二度とそんな言葉は使うな!」
後年、酒を酌み交わしながら猥談に打ち興じたこともある叔父ながら、当時はかくも保守的であった。
ついては……神秘のエロスが何であるかは、空想し想像すること以外の道がなかったのだ。
そうは言っても、手蔓ゼロでは何も思い描けない。僕が恃んだのは漫画の一コマ、映画のふとした場面、雑誌の挿し絵、人体図鑑、戦争の悲惨を記した図……時には絵看板、たまたま目撃してしまったイチャツク男女、下世話な冗談……などなどであった。
かくして僕が、想像した歪みに歪んだエロスの世界は、後年大いに頷いた所の、バタイユや渋沢龍彦に近かったのかも知れない。そう。エロスとは、死に至る生の足掻きであると……
僕は、そんな世界を絵を以て表現したいと考えた。多少の絵心はあったので……頭の中で繰り広げられる異常の世界を表現してみたかったのだ。
しかし、それは僕にとって、明らかに「禁じられた遊び」であった。その時、家族の全員は僕の頭を覗き込もうとする、権力の象徴でもあったのだ。
なにせ狭い家のことだ、独立した勉強部屋とてなく……せいぜい勉強スペースなのだから、家族がトイレに立つ時は必ず僕の机の横を通る、といった有り様であった。
今の子供達ならば、たいてい鍵のかかる勉強部屋もあって、親に見られたくないインモラルな絵図の秘匿も可能だろうが……当時の僕は、すべて明け透けであった。お袋などは、僕に内緒で机の抽き出しを勝手に整理したりしていたのだから……
結果……もし、僕が描き上げた絵が見つかり、異常と断定されたらなんとする。
僕はずる賢くも、大人達を欺くために、吸血鬼や妖怪といった、世間に容認された作をもって……そこに、微かなエロスを埋め込んだのだ。
例えば、同じ吸血鬼でも女吸血鬼、妖怪退治を以て、死のイメージを……
そう。僕が周りの子供達とちょっと違ったのは、一口に「エロス」と言っても、いっそ健全な「エッチ」の世界ではなく、些か哲学的「エロティシズム」だったのだろう。
やがて、僕も中学に上がる。僕が隠し持ったエロスは、益々バタイユに近づいてゆく。
そんなある日、僕は生まれて初めて、頭の中に繰り広げられるエロスの世界を表現する場を見付けたのだ。
続きは明日にでも……
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