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カットフルーツ
去年までは一顧だにしなかったのだか……今年の夏あたりから「カットフルーツ」のお世話になっている。
まあ、去年の今ごろは懐具合最悪で、フルーツなど贅沢品と遠ざけていたのだが……一端デザートとして食してみると、つい習慣になってしまったようだ。
一人暮らしの人も増え、需要もあるのだろうが……ま、てっきりハメられたらしい。ただし、身体にもよさそうだし、当面つづけてゆこうと考えている。
その位自分で切れよ……言いたくなるが、リンゴもカットされた状態で売っていたはず……
とはいえ、不満がないわけでもない……内容がワンパターンだし、何よりもかなり割高である。
加えて、フルーツで一番好きな葡萄が入っていることは滅多にない。
そう。僕はガキの頃から葡萄が好きで、始終食べていた記憶がある。
それでも……どんな品種と聞かれても、「デラウエア」が真っ先に浮かぶばかりである。他にも「巨峰」とか、滅多には食べなかったが「マスカット」くらいだろうか。
ところが、最近店頭を覗くと、かなりいろんな品種の葡萄が並んでいる。割合、どれも高価なので手は出ないが……やはり触手は動く。
日本には奈良時代あたりに入ってきたらしいが、もう一つのフルーツの雄である林檎同様……サムライがこれを食している図はあまり見かけない。
たぶん、全うな栽培は明治以降なのだろう。
僕にして、ガキの感性ながらも「柿」や「ミカン」なんかよりも、ちょっとオシャレな印象だったのだろう。
加えて、夢見がちな僕のことだ……小学生の時、「ブドウ」が夢に出てきたことがあった。
深夜……月明かりの一本道を歩いていると……前方に巨大なブドウの房がぶら下がっているのだ。見上げてみると……天空のずっと上、闇の中から舞い降りているといったふぜいであった。
夢の中で、僕は別に恐怖に襲われるでもなく、いっそ好奇心のままについ近づくと、一粒一粒はボーリングのボールほどもあって、色は薄い藤色……なんと、中が透けて見えるのだ。
そして、何かが蠢いている。僕はもっと、巨大なブドウの房に近づいてみた。
とたん……僕は驚愕する。そう。粒のそれぞれに、人の顔が埋め込まれ、口や目をしきりに動かしているのだ。何か言っているようでもあり……耳を傾けるのだが……外国語のようで判然としない。
僕は、家族へのお土産のつもりで、その粒の一つを両手につかみ、捻じり取ろうと試みた。
とたん、中の顔が歪み……恐ろしい叫び声をあげ……そこで、僕は目が覚めた。
以来……この夢の続きは見ていない。
「カットフルーツ」には葡萄が入っていないのだから、思い切って一つ物珍しい「パック」を買ってデザートにすれば……夢の続きが見られるだろうか?
たぶん、子供の王国をとっくに追放された身としあれば……不可能に違いない。
なに、一つ手立てがないでもない。葡萄と言えば、そうワイン!
しめしめ……ワインを一本開ければ……大人の僕でも小児の夢の続きが見られるやも知れない……
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