見出し画像

サトウ君と筋肉について……

 タレントなど見ていると、時に二の腕や大胸筋、腹筋などの逞しさを誇っている映像に出くわすことがある。確かに、カッコいいし、ある意味美しくもある。

 が、正直言って、僕はかかる肉体美に憧れたことはない。

 上記のタレントにして、自己満足と同時に、職掌柄必要に迫られてという事情があるのかも知れない。
 実際のところ、鍛え上げた肉体を保持するだけでも、大変な努力だろう。

 僕などは、手足がかろうじて動くだけの筋肉あれは是としているので……わざわざカネを弄してまでジムに通うようなことはあり得ない。

 ただし、そんな僕の姿勢を頭ごなしに否定した人物がいた。

 時は遡る……中学生の時だ。

 当時、僕は決して不良ではなかったが……特別優等生でもなく……それでも、クラスの仲間が苛められている現場などは黙っていられなかったのだ。
 こんなことがあった。

 クラスのY君が、トイレに連れ込まれて苛められていたのだ。理由は定かではないが……数人に囲まれ、多少の暴力を振るわれていたと思う。

 僕はと咄嗟に中に入り、

「まあまあ、俺の顔を立てて……」

 と、仲介に入ったわけだ。

 結果、事無きを得、苛められていたY君とはその後仲も良くなり……音楽好きとあって、知らない曲当も教わったものだ。

 さて……不良でも強そうでもない僕が、なぜ、不良どもの仲裁が出来たのか?

 理由は一つ。そう。僕には、暗黙の裡にワルの頂点に立ったいたらしいサトウ君という友達がいたのだ。
 このサトウ君……勉強は出来なかったが、頑強な身体の持ち主で、加えて仁義に厚い……ヤクザ映画の高倉健みたいな存在であった。
 実際、僕はサトウ君が取っ組み合いの喧嘩をしでかす現場など目撃したことはなかったのだが……周りのワルからも一目おかれ……決してボスという立ち位置ではなかったが、
……優等生のように教師の権力に頼ることも無く、己の正義感を以て筋を通すという人物だったのだ。

 そのサトウ君が、僕に繰返し言ってくれたことがある。

「男なら身体を鍛えろ! イザという時、お前じゃ……いつか痛い目にあうぜ」

 僕は屡々サトウ君の住んでいたポロアパートに連れてゆかれ……どこで拾ったとも知れないコンクリートブロックをダンベル代わりに、これを毎日百回は持ち上げろ……と勧められたものであった。
 実際、彼はそれを励行して身体を鍛えているようであった。

 以上……中学一年当時のことである。

 やがて二年になり三年に上がり、サトウ君とはクラスが代わったこともあって……付き合いも薄れ、僕は別な大人しい生徒達と群れるようになっていった。

 そして三年も秋深まる頃……僕は校庭の隅にあって参考書に目を落しているサトウ君を久しぶりに見かけのだ。
 はて? そこに不良はおろすワルの面影も無いのだ。身体も少し小さくなっているようでもあった。
 話しかけた僕に対し……サトウ君は、経緯を説明してくれた。

 なんでも成績が学年トップの、女生徒に惚れ込んだという。ちなみに当の美少女とは、僕も以前気になっていたのだが、先に記事にしたプリーツスカートの一件で熱が醒めてしまったのだが……
 いずれにしてもサトウ君はぞっこんらしく……当のA子さんが受験する都立の一流校に自分も入学したいと、時には学校を休んでの猛勉強を開始したらしい。

 それがサトウ君を見た最後になった。A子さんと同じ都立に受かったという話も聞いていない。

 ただし、その時のサトウ君は……高倉健とは別口の、新たなる挑戦者としての眼を光らせていたのは確かであった。

 もとより、僕はキン肉マンになるようなサトウ君のアドバイスからは遠ざかってしまったが……あの時、彼が筋肉を犠牲にしてまでも鍛えようとしていた頭脳の鍛練の姿は、今でも忘れることは出来ない。

 この秋……涼しい時期を見計らって、コンクリートブロックとまではゆかないが……夏場中断していた腹筋運動を始めようと思っている。
 サトウ君のことを、思い出しながら……

貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。