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時を操る

 人の一生は長いようで、短い。今でも、当然……と思っていたタレントや役者やミュージシャンが、疾うに他界していると知って愕然とすることがある。
 カッコいい永遠の二枚目のアイコンと信じていたアラン・ドロンの死などは、かなりショックであった。

 もとより、未だ存命の……往年の美男美女が馬齢を重ねた様を見る機会も多い。とはいえ……概ね、いっそ魅力を重ねている場合も多い。やはり芸能人など、人から見られる……という意識は、精神も肉体も活性化させるだろうか。
 中には「嘘!」と思えるまでに若さを保っていたり、仮に確実に老齢ではあっても、若い当時より俄然魅力を輝かせている人もいる。

 最近You Tubeで見た作家の加治将一など、昭和23年生まれというが、昔より遙かにエネルギッシュで魅力的だ。

 女優等も例を上げたいが、今更僕が列挙するまでもないだろう。

 タレントなど……若い当時と現在とを比べれば、全く別人と感じることは……僕の場合は少ない。基本の造形は変わりないのだし、皴等がさらなる魅力を刻んでいるはずである。
 もちろん、例外はある。当人の不節制、あるいは予期せぬ病魔によって……些か悲しくなる時もあるが、……しばしの後、復活してくれる様を目にすると、つい嬉しくもなる。

 はっきり言うが、僕は男女共に、年齢が魅力を減殺するとは思わない。
 もとより、美少女と老婦人が目の前にいるとすれば……やはり僕としては美少女に見惚れはするが……だからと言って、そこに確固たる「美」を見ているわけではない。
 そう。美に育ってゆくであろう……その素材に見惚れるのだ。

 実は、僕には人間観察とは言いつつ……一つの悪趣味な遊びがある。
そう。時間を操るのだ。

 上記の例で言えば……目の前の10歳ほどの少女を目の当たりに……僕は空想し想像を逞しくする。彼女が中学にあがり、高校生になり、やがて成人して恋を知り……ウェディングドレスを身に包み……優しいお母さんになり、子育てに腕を振るい……その子供達も独り立ちし……そして、計らずも、当の少女の隣に座す老婦人のような穏やかな美に変容してゆく様を……
 当然、幸せとは真逆の、零落してゆく様を意地悪く空想することもあるが……

 一方、老婦人にして……僕はやはり空想し想像するのだ。10年、20年と……彼女はどんどんと若返ってゆく。やがて女子高生になり、中学生になり……そして、たった今僕が空想のヨスガとしたところの、無垢な少女に生まれ変わってゆく様を……

 僕にとって一人の女性というものは、今この瞬間ではなく……上記のように時間のあらゆる相を同時に宿している、多元的存在として認識したいのだ。

 ただし言っておきたいがある。僕の眼差しは「女性三態」を描いたクリムトのように、シビアではない。僕は時間を操る小説家ではあっても、時間を凍結させる絵描きではないのだから……

 

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銀騎士カート
貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。