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夢のハンバーグ

 日本人の国民食と言えば、ラーメンやカレーライスと並んで「ハンバーグ」は必ずランクインするだろう。

 かく言う僕もハンバーグは大好きで、子供時代から今現在に至るまで色々と食べてきた。

 勿論、初めてて食べたハンバーグはお袋の手作りであった。
 野菜嫌い、特にタマネギの嫌いだった僕のために、お袋はこのタマネギをすり下ろして入れていたと思う。
 そしてソースは一般的な、ケチャップとウスターソースを混ぜた奴であった。

 僕は別にハンバーグフリークというわけでもなく、あちこちの美味しいと言われるハンバーグを食べ歩いたわけでもないのたから、何ら一家言も持ってはいない。
 一般食堂の奴から、ちと気取ったcaféのランチといったところであるが……特別不満を持つではなく食べてきたと思う。
 勿論、時には「何じゃ、これ?」というほど不味い、変なクセのある一品にも出くわしたが、概ね、「ま、こんなものだろう」といった感慨であった。

 そうは言っても、高校そして大学生あたりになると……お袋が仕事で帰りが遅いという事情もあって、自らハンバーグを作るようにもなった。
 まあ、ハンバーグ作りなどは、プロでもないのだから何も特別の技が必要というわけでもなく、捏ねて焼けばいいだけの話である。
 ただし、加えるタマネギ(大人になってからはタマネギも食えるようになっていた)だけは、バターでシッカリアメ色になるまで炒めるのは忘れなかった。
 あとは、片面三分ほど焼いたあとひっくり返し、料理酒をぶっ掛けて蒸し焼きのようにして火を通す……コツと言えば、その位だろうか。とにかく両面シッカリと美味そうな焦げ目がつけばそれで充分なのだ。
 ま、誰が作ってもここまでは同じようなものだろう。

 ただ、私見ではあるがハンバーグの要はやっぱりソースにあると考えている。赤ワインを煮詰めるとか色々のレシピもあるらしいが……やはり当初は、原点であるケチャップとウスターを、焼き上げたあとのフライパンに入れて煮詰めるというものであった。

 当然、これでも素人料理としてはそこそこ美味いのだが……どうしても、もチット、美味いソースを考えるようにもなった。

 そう。一般に使われるデミグラソースである。有名な所では「ハインツ」とか、最近は見掛けないのだが、ブルドッグソースから出ていた「掛けるデミグラ」というのがあって、これで安直に誤魔化していた時期もあった。

 が……やはり、出来合いの味では満足出来ないのだ。

 要は市販の奴というのは万人向けであって、各個人の好みにピタリと合致はしないが道理である。
 もちろん素人のことだからプロとは趣を異になるが、僕としては市販とはいえハッシュドビーフの素を利用することを思い立った。要はハヤシライスのルーである。
 タマネギを炒めて、まずは簡単なハヤシを作り、そこに自分好みでケチャップやソース……時には醤油も加えて煮詰めてゆく。
 そうそう……ハヤシのルーの代わりに、これも市販だが缶詰めのミートソースにケチャップ、中農ソースなど加えて煮詰めても、なかなか美味しくなるのだが、いかんせん、大量に作らないと決まらないので厄介である。

 と、まあ……かっては色々と自分なりにソースを工夫して作っていたのだが……この所、すっかりと自炊でのハンバーグから遠ざかってしまった。
 元来がモノグサなので、ついついレトルトなどで誤魔化し……食生活もすっかりと乱れてしまったようである。

 そんな僕だが……最近になってやはり市販のハンバーグに辟易としてきたせいか……自ら肉を捏ねてみようとも思っている。

 イメージの中では、ハンバーグを焼き上げるまでは造作もないのだが……いざソースとなると、今一考え込んでしまうのだ。
 かって色々と工夫したソースについて思い返してみるのだが……はっきり言って、「これ!」という決め手が見つからない。

 あれでも良し、これでもまあ良し……といった塩梅なのだ。

 さあ、困った。

 ついては、自分の人生に於て一番美味しかったハンバーグを記憶の中に探ってみることにしたのだ。

 そして、思い当たったのが、やはり原点であるお袋の味であった。

 ただし、条件がある。たぶん、今そのままのレシピで作っても、満足は出来ないだろう。

 そう。僕がふと思い当たったのは、小学生時代……お気に入りの友達を招待しての誕生会の時……お袋の作ってくれたハンバーグの味なのだ。
 当然、誕生会だからと言って、特別な趣向が凝らされていたわけではない。

 本当に仲の良かった友達と、ワイワイふざけながら食べたからこそ、あの素朴なハンバーグは普段の何倍も美味かったに違いない。

 思えば、あの当時以来……本当の仲良しと、何の屈託もなく、何の不安もなく、……ひたすら楽しいひと時を過したことはなかったのかも知れない。

 間違いはない。あの当時、僕は確実に夢の王国の住人だったのだ。
 ぼろ家とはいえ……やはりあの安物のテーブルは、確かに夢の宮殿の大食堂の見立てであった。

 ちょっと悲しい気がする。

 いかにレシピに凝り……プロの技を真似たソースを作ったにしても……僕はたぶん二度と、あの時味わった夢のハンバーグを食べることは叶わないだろう……

 

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銀騎士カート
貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。