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昆虫採集
この時期、大きな公園で寛いでいると、お父さんに連れられた小学生ほどの子供達が、昆虫採集に励んでいる現場に出くわす。網を手に、虫かごなどをたすきにぶら下げてはいるが……こと東京のこと、せいぜい蝉の類いで、カブトムシやクワガタを見かけたことはない。
公園の掲示には、昆虫の採集はご遠慮……と記載されてはいるが……
今、目の前にもそんな親子連れがいる。お父さんは木を見上げ、子供にも促す。蝉でも見付けたのだろうか?
しかし、子供が手にするちっぽけな捕虫網では、間違っても届かない。
思えば、僕も、子供時代、昆虫採集セットというものを買ってもらい、たぶん……それなりに昆虫採集を楽しんだのだろうか?
はっきり言って、網を翳して蝶などを捕獲した記憶はあまりない。ただし、一度だけ、東京のど真ん中だと言うのに、玉虫を見付けて、懸命になって掴まえたことはあった。乱暴だったのか、足が一、二本ちょんぎれてしまったのを今でも覚えている。
つらつら思い返して……昆虫標本を作った記憶は殆どないのだが……先に書いた「昆虫採集セット」というのは、どこか不穏なイメージとして覚えている。
確かに、「悪魔の医学」という印象であった。
セットの中には、注射器と同時に、赤と青の液体の入ったビンが納められていたのだ。
確か、赤い方は毒薬、青の方は防腐剤だったと思う。
考えてみれば、子供とは残酷なもので……無辜の昆虫から、ささやかな命を奪い、この殺しの快楽の記念として、防腐剤を施して死体を保存するわけだ。
そう。学校の宿題でもあったらしい、昆虫の標本箱とは何か? 多くの死体を展示した、巨大な棺のことだろう。
僕は我に返る。ほとんど成果のなかったらしい親子づれは……すでに遠ざかっている。
子供はおおいに不満だったのだろうが……僕は、ついホッとしてしまった。
ベンチを立つと同時、足下に蝉の死体が転がっているのが目に入った。地下での長い生活を終え、蝉にとって、夏の光はてっきり天国への誘いなのだろう。
その後、足下に目を落としながら自転車を転がしていると……思いの他、短い命を終えた虫達の遺体が転がっている。蝶、カナブンなど。自然の摂理なのだろうが、黄金虫が蟻によって引き裂かれている現場にも出くわした。
公園を後にする時、僕はふと思った……
もし子供に戻れるのなら、断じて捕虫網を翳した殺し屋などではなく、命を終えた虫達の遺体を葬る、葬儀屋でありたいと……
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