「挨拶」について……
自分で言うのもどうかと思うが、僕はかなり「非常識」な人間である。
それでも……取りあえずは社会的ルールを、少なからず守っているつもりだ。
玄関先などで近所の人を見かけると、挨拶くらいは励行しているし、それなりの礼儀も心得ていると思う。もちろん、最低限ではあるが……
そんなことは「常識」だろう……と言われそうだが、僕は子供のころから、この「常識」に対して不審を抱いていたのだ。
色々と、思い当たるフシもあるのだが……今日は「挨拶」に関して綴ってみたい。
そう。僕は幼い頃、結構人見知りで……近所の人に対しても、きちんと「挨拶」が出来なかったのだ。当然、当時は今みたいに捻くれてはいなかったので……まさしく「常識」として、挨拶くらいはしたいと思っていたし、無言のままモジモジとしながらも、心では「おはようございます」「こんばんは」とは呟いていたのだが……
結果……僕は近所からは「感じの悪い子」とか……「しつけがなってない」なんて、特にご老体あたりからは囁かれていたと思う。
お袋もそんな噂を気にしていたのだろう……一緒に歩いている途中で近所の人に出会うと、相変わらずモジモジしている僕の後頭部を押さえ、無理矢理にお辞儀を強要したものであった。
ちゃんとご挨拶しなきゃダメよ……
と、言いたかったのだろう。
そんな僕だったが……たぶん小学三年位の時だろうか……仲の良かった友達がやたらと気さくな質で、誰に対してでも気軽に明るく挨拶が出来たのだ。
僕の家に遊びに来た時なんか……帰りなど、近所の人が通り掛かると……実際は本人の顔見知りでもないのに、「こんばんは」とニコニコ顔で頭を下げるのだ。
当然、挨拶された「おばさん」は、笑顔を返し、やはり「こんばんは」と言葉を掛ける。
……が次の瞬間、つい傍の相変わらず無言の僕に視線を向け、睨みつけるのだ。
それから暫く後……僕は、友達に感化されたのだろう……ついつい彼に合わせて「挨拶」している自分に気がついた。
実際に「挨拶」してみると……「こんばんは」なんて、イトも簡単な行為に違いない。
やがては、友達が一緒の時でなくとも、僕は普通に「挨拶」する習慣を身に付けたらしい。
結果……僕は「感じの悪い子」から、「感じの良い子」に昇格したわけだ。
僕が「常識」を疑い……ひねくれ者への横道に踏み込み始めた端緒だったのかも知れない。
そう。僕は、かって僕を睨みつけていた「おばさん」に対し、「こんばんは」と明るく挨拶しながらも……実は、心ではかく呟いていたのだ。
……この「糞ばばぁ!」と……
挨拶など、所詮は「虚礼」なのだ。
僕は、今でこそそれなりの「礼儀」としての挨拶はしているつもりだ。
バイト先などで……こっちが「こんにちは」と言っても、ムツっとている人も、確かに存在する。
でも、僕は……単に「礼儀」という意味合いではなく……お互い大変だね。と言った意味で、無視されても、僕はそんなことは全く気にしない。僕だってそうだったのだから……
先だって……そのムツっとしている人に、いつもと同じく「こんちは」と言ったところ……始めて、微かにニコつと笑って、「こん……」と言って貰えたのだ!
昔の自分を見ているようで……こいつとダチになりたい……そう思うほどの気持ちであった。
反面……同じバイト先で、「挨拶」をアホな階級の差として強要するジジィに対しては……当然揉め事は時間の無駄と、作り笑いの「挨拶」はするのだが……
当然、ご理解頂けるだろう。
「挨拶」の後に……必ず、「この糞ジジィ」という彼に相応しい言葉を心で呟くことだけは忘れていない。