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本当の悪夢
夢を見ることをコヨナく愛する身だが……先だって、完全に頭に来る夢を見た。
※
……出し抜け、ジリジリと目覚まし時計が喚き散らす。起床時間の5時半……
分かった! 分かった! うるせぇ……!
毎度のことである。悪態をつきながら上半身を起こし、手探りにアラームを止める。
……寒い、寒い……と愚痴りながら、シャツとズボンを引っ張り出し、パジャマを脱いでこれを身に付ける。
布団を上げ、欠伸をかみ殺しながら頭にタオルを巻き、まずはトイレ……ついで洗顔等を済ませ、化粧水と乳液を顔にはたく……ミルクを温め、バイトの昼飯用のパンをバッグに突っ込む。
炬燵を点け、ミルクを啜りながら、テレビのスイッチを入れる。
毎度のルーティンである。
三度目くらいの大欠伸をしてから、ついテレビ画面を覗き込むと、
あれ?
そう。いつもの見慣れた画面ではない。チャンネルが違う? ……いや、そんなことはない。
試しに、つい、時計の目を走らせると、
嘘だろ! ……針は「2時25分」を差している。窓の向こうは暗い。当然、午前の2時25分である。
……しばし、何が起こったのか判然としない。
確かに、目覚ましにいつものように起こされ……そして、今の状況に至ったのだろう。
時計の故障?
再度、目覚まし時計に目を転じる。
おかしい。変だ。……目覚ましはセットされたまま、……当然ベルを止めるスイッチも上がったままである。
冷静に、冷静に……
そう。俺は確かに、ジリジリという目覚ましのベルにたたき起こされ……そのベルを止め……
ジリジリ? ……つい記憶を巻き戻す。ジリジリ?
なんたる事か……俺が耳にしたのは、いつもの電池式の目覚ましではなく……手動の目覚まし時計の音だったのだ。目下……家には手動式の目覚ましなどないのに……
ふつふつと怒りが込み上げてくる。
間違えはない。俺は、「手動式の目覚まし時計が鳴っている」夢を見ていたのだろう。
すでに目は冴え渡ってはいたが……ここで妥協してはシメシが付かない。
今、上げたばかりの布団を再び敷く。そしてパジャマに着替え……俺は改めて布団に潜り込んだ。
当たり所のない憤りのせいか……なかなか睡魔が訪れない。
それでも……夢の尻尾たる「手動式目覚まし」のことを考える。
……いいぞ。少しずつ……閉じていた夢が帳を開く。
……ほの暗い、6畳ほどの和室が見える。そう。ここは子供時代の世界らしい。
誰かいないのか?
とうに死んだ家族に会えるのなら……
……しかし、部屋には誰もいない。
思い切って表に出るか。子供のままの、昔の友人に会えるかも知れない……
玄関に向かいかけると……ついそこの机の上に、古式の手動式目覚ましが乗っている。
なんとも懐かしい。針には蛍光塗料が塗ってあり、ベルが帽子みたいに乗っている。
つい手にしたとたん……目覚ましが鳴り始める。
ジリジリ、ジリジリ、ジリジリ……
冗談じゃない。こんな所で目覚めてたまるものか!
俺は懸命に目覚ましを止めようと試みる。しかし、どこにボタンがあるのかも分からない。
ジリジリ、ジリジリ……
神経を逆撫でする音は……やがて、ルルルル、ルルルル……
……ルルルル
俺は目を覚ます。
見慣れた電池式の目覚ましが、無表情に鳴り渡り……針はキッカリ5時半を差していた。
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