西田敏行さんの訃報に接して
西田敏行さんが亡くなられた!
もとよりこれまでも、お馴染のタレント、有名人等が゛亡くなる報には何度も接してきたが……僕としては案外シラッと受け止めてきたのだが、今回ばかりはかなりのショックであった。
とはいえ、僕は何も彼の大ファンであったわけではなく、映画なども殆ど見てはいない。
昔からテレビあたりでチラホラ見る程度であり、その個性に好意を寄せてはいても……それ以上でもそれ以下でもないという印象ではあった。
にもかかわらず、今回、西田敏行さんの死に接して、なんとも言えない喪失感を覚えて愕然としてしまったのだ。
享年76歳というが、今の基準から見れば早すぎる印象である。
当然、この76年を考えてみるに、敗戦間もない時期に生まれ、昭和、平成……そして令和と生き抜いてきた時代の生き証人でもあった。
ふと、想像してしまう。
もし僕が生前の彼と対談する機会があったらと……
そう。過ぎ去った現代の歴史の一コマを、一つの体感を以て熱く語ってくれたのではないかと……
彼の少年時代には、まだ「傷痍軍人」というのが街の風景に、いっそ馴染であったはず。
今世紀に生まれた若者などには想像もつかないだろうが……手足を失い、白装束の、物ごい同然の姿が、戰の深い傷跡として残されていたのだ。
やがて時代は進む。安保闘争、東京五輪、石油危機……そして経済成長とバブルの破裂。
経済は停滞しながらも、風俗は目まぐるしく変化した。
もはや、「傷痍軍人」など、その言葉すら知らぬ世代で溢れている。
しかし、敗戦の惨めさから、令和のこの時まで……時代は一つの必然のままに繋がっていたはずである。
西田さんはかかる時代の変遷の一コマ一コマを……第一線で生き抜いてこられたのだ。
それぞれの時代には、それぞれの空気の味がしたはずである。吐き気を催すような空気、ふっと安堵できる空気、息がつまような不快感、……
西田さんの、あの軽妙な語り口で……移り行く時代の、それぞれの空気の味わいをぜひとも語って欲しかった……