
糸巻きタンク
日曜日の昼下がり、公園のベンチで寛いでいると、つい隣のベンチで5、6歳ほどの男の子が……なんと! 昔懐かしい「糸巻きタンク」で遊んでいるのだ。
寄り添っている若いお父さんらしき人が、祖父あたりから教わったのを、世代を超えて伝授したに違いない。
それにしても、今どき「糸巻き」などあるのだろうか?
思えば僕も幼少の頃、叔父2と共に「糸巻きタンク」で遊んだもの。
祖母の裁縫箱には必ず「糸巻き」が入っていて、これを流用したのだ。
つい懐かしくなって、先の子供の操る「糸巻きタンク」を見ていたのだが……なんとも歯がゆい。
はっきり言って、単に糸巻きにゴムを通しただけで何の工夫もない。
僕が作った「糸巻きタンク」には……当然木製だっので、ナイフで刻みを入れてキャタピラとなし、ゴムを巻き付ける側と反対側のストッパーにも色々と工夫を懲らしたものであった。
家にはガラクタ用のブリキの箱があって、ここには玩具の残骸や近くの工場近辺で拾ってきた様々な金具が詰まっていたので、これを活用し、今で言えばガンダムの腕みたいな装置を取り付けるのだ。
勿論、「糸巻きタンク」は一台だけではなく……恰も相撲の番付さながらに、強いの弱いのといくつも取りそろえる。
そう。「糸巻き」と言っても一様ではなく、巻いてある糸の分量にもよるのだろうが、胴体の太いのもあれば細いのもある。
勿論、太いのは「横綱」である。
そして、この様々な「糸巻きタンク」を以て相撲遊びをするわけだ。
当初は単なる「押し相撲」のみで、当然目方の重い「横綱」に格下の力士は叶わない。
何せ、叔父2と言うのも、子供じみていて……自分の育て上げた「横綱」には強烈なゴムを仕込み……どうだ! ……と威張っていたのだ。
なにせ、ゴムを巻く側には滑りをよくするために、藥ビンなどの蓋に蝋燭をたらしたのを装着して動きを円滑にするなど、こっそりと「不敗神話」を企んでいたのだから……
そこで、対抗策として僕が考えたのが、軽量の弱い力士ながらも、ガンダム並のアームを取り付けることによって、単なる「押し相撲」以外の「技」が使えないかという工夫であった。
今では細かい技術的なことは失念してしまったが……要は、取り付けたアームが相手のとある部分に絡むと……たぶんテコの原理なのだろうか、軽量の弱点が克服でき、重量級にも対抗できる力を発揮するのだ。
僕は、ガキながらかなり夢中になり……次に考えたのが、なんとか「投技」を使えないかということであった。
ガラクタはこの時、まさに宝の山であった。アームは重すぎても、長すぎてもだめだ。……要は、エンジンであるゴムの馬力とのバランスを考えなくては……
……そして僕はついに、取り付けるアームの位置を接地面ギリギリに下げることに依って、……例えるならば、軽量の力士が重心を下ろし、「横綱」相手にシッカリと、前褌なり有利な状態にマワシを掴み、ゴムの馬力を前進ではなく、相手を持ち上げる力に集中できる技術を掴んだのだ!
今でも、覚えている。
叔父2自慢の「横綱」を、軽量級の僕の「糸巻きタンク」が、まさしく「上手投げ」さながらにひっくり返しだのだ!
つまらない遊びではあったが……かの公園で遊んでいた子供にも、その位の工夫を懲らして欲しいのだが……たぶん、今の時代はそれを許さないのかも知れない。
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