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秋の魔王

 「エモい」昭和レトロが流行っているとのことで、この間、いろいろ動画等をサーフィンしていると、戦後まもない昔のヒーロー物である「月光仮面」の白黒動画に目が止まった。
 真っ白いタイツにマント、覆面にサングラス……そして額には三日月のトレードマーク。

 この強烈なキャラクターは、今でもアイコン的存在として生き延びていそうである。
 僕が見た動画の一つに……当の月光仮面が、若い夫婦者の住むアパートの窓から飛び込んで来るなり、唖然とする二人にかく宣うのだ。
「私は、怪しいものではありません」

 おいおい、出没の仕方といい身なりといい、十分に怪しいだろう!
 思わず、爆笑してしまった次第である。

 それでも、つい面白くなって他の動画もいくつか見てみたのだが……このヒーロー、いつも孤立無援であり、これを援護するような仲間の存在が見当たらない。

 たぶん、最近のアニメばかり見ているせいか……ワンピースにしてもDr.ストーンにしても、主人公の回りには必ず頼りになる仲間の存在がある。
 すでにして、仲間はいて当然というけはいである。

 思うに、時代が下るに従い、本来たった一人であるはずのヒーローに、恋人なり友人なりが一人、叉一人と加わり……今では、多人数の集団にまでで膨れ上がってもいる。
 確かに、仲間がいた方が心強いし、ドラマの進展の上でも色々と好都合なのだろうが、どこか孤独を恐れる人間の心理が働いているようにも感じられる。
 現実世界では、アニメに出てくるような本当に頼りになる仲間など信じていない(本当は信じたいが)……だからこそ、その反動として架空の世界に理想を描きたくもなるのだろう。

 実は、僕も小学生の頃、自作の漫画で一人のヒーローを創り出したことがあった。
その名を「秋の魔王」という。どんなコスチュームをさせていたのかは判然としないが、三日月みたいな横顔しかないという設定であった。
 ……なんのことはない、横顔しか描けなかったわけだが、2次元の平面上、左右から迫り来る敵をやっけるには横顔があれば十分という牽強付会さであった。

 筋立ては全く失念しているが、その発端として……確か鎌倉あたりに謎の大爆発が起こり、閃光夜空を切り裂くものの、爆心地と思われる所に警察が赴いてみれば、いかなる破壊の痕跡もない。
 単なる音響テロ……そう思われた直後、数々の謎の事件が全国に勃発するのだ。
 往来をゆく人が突然透明になったり、猫が人語を話したり、樹木が根を足として動き出したり……
 かかる謎を解明するために立ち上がったのが、「秋の魔王」であった。

 シリーズものとして描き続けるつもりだったのだが、見せた友達には全くの不評であり、結局は全てボツにしてしまったのだが、なぜか今日に至るまで「秋の魔王」という名前だけは強く頭に刻印されているのだ。
 今思いだしても、主人公の素性はおろか敵対するのが何物であったのかも判然としない。ただし、一つだけ覚えているのは、このヒーローは完全に孤立無援であり、ただの一人の仲間も存在しなかったいうことである。

 なんだか……ガキの時代にして、自らの将来を見通していたようにも感じられるのだ。
 もとより「ヒーロー」とは無縁の憶病者ではあるが、孤立無援の横顔しかない存在とは……とりもなおさず今の僕でもあるだろう。

 明後日は休み……ずっこけヒーロー「秋の魔王」に変身して、活字空間のシュールな事件解決に向け、夜空を駆け巡るのも叉一興かもしれない。

 

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銀騎士カート
貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。