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我がロシナンテ号

 自転車というのは面白いもので、普通の歩行ではヨタヨタしているようなご老体が、一端自転車に跨がると、平然と通りを駆け抜けてゆく……日常に見かけるけしきだろう。

 確かに機能の衰えた足腰ではあっても、ペダルを踏むという単純な行為の連続で、自転車は独楽の原理のまにま、安定して走ってくれるわけだ。

 もとより、僕にして自転車は日常の足として多いに利用している。とは言え、仕事の行き帰りなどは、歩いて駅まで普通に歩いているのだが……休日の外出時、雨が降って自転車に乗れない時など、やたら気が滅入って、歩くこと自体が途轍もなくシンドイ動作にも思えてくる。
 
 思うに、初めて自転車に乗ったのはいつのことだったろうか?

 初めは当然三輪車……ついでチェーンこそついていないが一応二輪の奴だったろうか?

 そして、子供用ながら、チェーンのついた普通の自転車。たぶん、小学校の低学年の頃だろうか?
 調べによると、一般的には4、5歳で自転車の乗り方を学ぶらしいが、僕はちょっと遅かったのかも知れない。
 それでも、たぶん……補助車を外した幼児用の自転車でバランスのとり方だけは心得ていたらしく、普通の自転車に乗ること自体に苦労することもなかったはず。

 夜の公園で、誰か家族と一緒に練習していたのだが……同じ年ごろの男の子に石を投げつけられた記憶がある。
 実はこの子とは中学の時友人になったのたが……どうやらその子は自転車に上手く乗れなかったらしく、それがシャクで、僕につい石を投げたらしい。

 いずれにしても、小学校、中学校までは大いに自転車を乗り回し、三段変速の内装ギャを、単にカッコつけるために小遣いを貯めて外装に代えてもらったほどだ。
 当時はやたら改造することが好きで、ハンドルを真逆に装着したり、ブレーキの調整も手を真っ黒にしながらも夢中になったものだ。

 しかし、高校に上がると同時、僕はパタリと自転車に乗ることをやめてしまったのだ。もとより、改造のしすぎで自転車を壊してしまったこともあるが……乗りたいという気分も失せてしまったらしい。

 理由はたぶん、中学時代と違って、自転車に乗って仲間と集うこと自体が激減したせいだろう。
 今思い返しても、高校時代は休みの日でも殆ど外出はせず、ひたすらジャズを聴いていたらしい。

 大学に進学してからも、頭からは「自転車」の存在自体消え去っていたようだ。

 かくして時が進み……僕が小説にのめり込むのと同時に、再び自転車が夢の世界から舞い降りたというふぜいであった。
 きっかけはハッキリしないが、当時仲の良かったcaféのオーナーがカーキチで……僕にはよく判らなかったがマツダの「RX-7」という車をいかに改造したかを語るのを耳に、つい吐き捨てたものだ。

 俺は車の免許は持ってない。自転車で充分だ!

 彼が応じて、

 僕も自転車は好きだぜ。どこのが好き? 僕ならトレックかな……

 トレックって何? どうも知らないのがシャクにさわり、僕は自転車について色々調べ始めたのだ。いろんなメーカー。種類などなど……

 そしてある日……途轍もなく心魅かれるマウンテンバイクに巡り合ったのだ!

 そう。自転車好きなら知らない人はいない……キヤノンデール!

 しかも片持ち車輪のマウンテンバイクを見た時……これこそ、俺の乗り物だと確信したのだ。
 しかし、maid in USAのこのバイク……値段が二十五万!

 僕は食うものも食わずにカネを貯め……これをついにゲットした!

 僕はこの愛車を「ロシナンテ号」と名付け、現在に至っている。

 乗り手のドン・キホーテは相変わらずの誇大妄想……愛馬ロシナンテも今ではだいぶガタもきているが……

 これからも、風車相手の戦いは続きそうである…… 

 

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銀騎士カート
貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。