あいすくりーむ解禁の話
3歳目前の夏、娘がアイスクリームを初めて食べた時の話。
アイスクリームのうた
昨年夏、保育園で「アイスクリームのうた」を習ってきた娘。今年もふとした時に歌っていた。
あいすくりーむー
あいすくりーむー
どこか〜ら どこか〜ら だーべよっかな〜
ぺろん ぺろん
そしてこちらに視線をうつし、
「娘ちゃん、あいすくりーむ食べてみたあい」
と言う。
娘は3歳目前にしてアイスクリーム未経験。私の判断で未だアイスクリームNG。
何故か。まずは虫歯リスク(過保護な自覚はある)。あとは単純にアイスクリームが手や服に付いたベトベトが恐ろしい(明らかに大きな一口を無理矢理押し込む。口から垂れるのを手でふせぐ。そして手についたバニラアイスを、娘の服でごしごし。べたべたが取れないイライラで私の方にガバッと抱きつく。…容易に想像できる)。
でもなぁ、いつかは通る道だしなぁ。うだうだ考えていたが、「アイスクリームと娘」なんて最高にかわいい絵面だし、と、コロナの自粛期間が終わった暑い6月、あいすくりーむに挑戦することにした。
アイスクリーム、買う
頭の上に伸ばした手とおでこをべたりとショーケースにくっつける。色とりどりのアイスクリーム。きょろきょろ目を動かして、小さく「わぁ…おいししょ〜」と呟く娘を見ながら、バニラアイスクリームをカップで、とオーダーした。
ショーケースのカーテンが開けられ、カシャカシャとディッシャーが鳴り、娘の目の前にあったバニラアイスクリームをするりとすくう。透明なガラスケースの中での動きを、じっくりと目で追う娘を盗み見る。目からドキドキが伝わってくる。なんとも言えない気分になって、ふふ、と笑う。
優しそうな女性が、娘に合わせて身を低くし、「どうぞ」と渡してくれた。娘は小さく、ありがと、呟く。視線も意識も、全てが小さな両手で持った、白くてひんやりした固まりに吸い込まれていた。
アイスクリーム、食べる
アイスクリームに吸い込まれたまま時が止まる娘の、むちっとした腕をつついた。こっちよ、と促す。小さなカップへ魅入られているため足取りはおぼつかない。頼むから躓いて転ばないで、と願いながら木陰へと向かう。少し早いセミの鳴き声が聞こえ、小さく光る滴が顎からぽたりと垂れる。
よし、この辺りでいいかな。と言うと、スプーンを握りしめた娘が、私をじっと見つめる。もう、言いたいことは分かる。
「うん、食べていいよ」
視線をぱっとアイスクリームに移し、透明なプラスチックスプーンに半分ほどすくう。ぱく、と一口。少し目を開く。わぁ、と呟いてそこから続けざまに、ぱく、ぱく、ぱく。
ぱく、ぱく、ぱく。
わかる、止まらないよね。口の横から垂れる溶けたアイスクリームをタオルで拭っても、スプーンは止まらない。半分ほど食べた頃、ふう、とため息をついてようやく顔をこちらに向けた。もう、この顔を見ると、感想なんて聞かなくてもわかる。けど聞かずにはいれなくて、「アイスクリーム、どう?」と尋ねる。
パッと顔が明るくなった。優しく揺れる木漏れ日に、私は目を細める。
「おいしい〜!ちめたい!娘ちゃんあいすくりーむだいすち!!」
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