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きみのおめめ 休日のトースト #16

休みの日、目覚ましを掛けずに朝を迎える。
隣で寝転んでいるはずの娘がおらず、あわててふとんをめくる。体にまとっていたあたたかい空気が、10月の冷えた空気へと移り変わる。夫と私のあいだのシーツを撫でると、わずかに温もりが残っていた。

リビングのドアを開けると、テレビの前にちょこんと座った娘がいた。カーテンの隙間からこぼれた朝が、肩にかけているグレーのブランケットに光の線を作っていた。背中がなだらかな線を描いている。スン、と鼻をすすると、跳ねた髪の毛の一本がきらりと光った。テレビの映像が動くたび、娘の白い頬が薄い膜に覆われるよう、淡い虹色のベールをうつす。

おはようと声をかけると、のろのろと同じ言葉が返ってきた。
今日の朝ごはんはトーストにします、と言うと、
「はあい」
とのびた声で返事をした。

昨日の晩、お肉を食べたので朝食はお魚にしよう。
そう思い、冷凍庫の中から凍ったしらす干しを取り出す。以前パックで買って小分けしたものを、平になるようラップに包んでいた。
食パン2枚を皿の上に乗せ、ペティナイフで半分に切る。
マヨネーズをスプーンでのばし、その上に凍ったままのしらす干しをぱらぱらと乗せる。とろけるチーズを乗せて、最後にもう一度マヨネーズを斜めにかける。
オーブンの扉を閉める音に気づいた娘がおぼつかない足取りでキッチンに来る。
「きょうは何をのせたやつ?」
背伸びして作業スペースを見渡し、皿の上に落ちたパンくずをつまんで口に入れた。
しらすだよ、とこたえてガラスコップを出すと、そのコップをダイニングテーブルに運びながら、あ、とちいさく声に出したあと、
「マヨネーズかけてる?」
と訝しむ。もちろんかけてるよとキッチンから返した。

とと起こしてきてー、と言うと「わかってる!」の声と寝室へと走っていた。
しばらくして、スリッパの音とともに寝ぼけ眼の夫が娘を腕にまとわりつかせながら「おはよう」とキッチンへとやってくる。
夫はオーブンの中を盗み見て「マヨネーズたくさんかかってる」とにまりとする。同じ顔をする娘とシシシ、と笑っていた。

夫が洗面所へ行っているあいだ、トーストの上で味付けのりをじょきりじょきり、と切った。細く刻まれたのりはぱらぱら落ちた。
「娘ちゃん、のり切るのやりたい」
と言うので、ありがとうとキッチンばさみを渡す。私と夫のトーストには太めののりがこんもり乗った。
夫が冷蔵庫から牛乳を出しコップへ注ぐのを待ち、「いただきます」と3人で声を合わせた。
トーストを手に取ると、香ばしく甘じょっぱい香りが鼻をくすぐる。
一口目を食べた夫に、娘はすかさず「のり、娘ちゃんが切ったやつだからおいしい?」
と聞いた。
夫は「いつもより香りが豊かだとおもったら…娘ちゃんが切ってくれたの?」と大げさに驚いた顔をする。頬にパンくずをつけながら満足そうに頬張る娘を見届けたあと、私は一口目のトーストをカシュリ、と食べた。

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にわのあさ
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