常に変化に適応していくために。ZIPAIRの新たな挑戦「サーキュラーフード」導入の舞台裏。
こんにちは。ZIPAIR note編集部です。
ZIPAIRはSDGsの達成に向けて、「2030年1機まるごとSDGsフライト」という目標を掲げ、さまざまなことに取り組んでいます。
今回は、新たな取り組みとして7月より機内食に導入した「サーキュラーフード」について、取締役の深田康裕に導入経緯や今後のZIPAIRのSDGsの取り組みについて聞きました。
サーキュラーフードとは? そして、航空業界が取り組む意義とは?
―まず、今回導入した「サーキュラーフード」とはどのようなものですか?
サーキュラーフードとは、いわば食材におけるサステナブル。持続可能な社会の実現にあたり、環境負荷の低減を目指し、捨てられるはずだった食品を新たな食糧として活用すべく開発され、新技術を用いて生産された循環型の食材および食品のことを指します。
そのアプローチはさまざまありますが、今回ZIPAIRの機内食で採用したのは国産食用フタホシコオロギを粉末化した「グリラスパウダー」です。
―なぜ、エアラインであるZIPAIRが「サーキュラーフード」を?
ZIPAIRの設立は2018年。このタイミングで企業として何をすべきかを考えた時、そして、「NEW BASIC AIRLINE」という目標を掲げている以上、“サステナビリティ”というのは事業を行ううえで必要不可欠であり、社会の要請に応えていくためには、当たり前でなくてはいけないと考えていました。
ですから、就航当初から機内用品すべてに脱プラスチックを目指しており、食器類は紙製、プラスチックも再生プラスチックを使用しています。細かい部分では、機内食を運ぶカートの中の引き出し(ドロワー)も再生プラスチック製です。
今回のサーキュラーフードの取り組みは、そういった取り組みからさらにもう一歩踏み込んだ提案となります。
味の選択肢以外にも、選べる幅を拡大。
―なぜ、昆虫食に取り組もうと思ったのですか?
きっかけは息子の高校の卒業式です(笑)。校長先生の「社会課題の解決など社会の役に立つ一員となって欲しい」という趣旨の式辞のなかでこれからの食糧事情について言及され、それが昆虫食の話だったのです。
その中でもコオロギは世界のたんぱく質不足を解消するだけでなく、食品廃棄物の問題を解決できる昆虫として近年注目されていましたので、ZIPAIRでもトライしてみたいと担当者に相談し、食糧見本市にも出かけました。
そこでお会いしたのが、グリラスパウダーを使ったクッキーを作られている株式会社グリラスさんでした。
昆虫食と聞くと少しネガティブなイメージを持たれる方も多いと思いますが、初めてサンプルを試食した時はまったく違和感がないことに驚き、むしろ美味しい!と思ったことを今でも覚えています。
その後、試行錯誤を重ね最終的にできあがった新メニューは「トマトチリバーガー」と「ペスカトーレ」です。
開発段階では、ハンバーグの中にグリラスパウダーを入れたお弁当も候補にありましたが、独自性やバリエーションを広げるという点において、これまでになかったバーガーやパスタ類を採用することも新メニュー開発として大きな意味がありました。
今回の導入についてはインターネット上で否定的な意見もありましたので、実際に提供した当初は不安もありました。しかしながら、弊社サービスはすべてお客さまがご自身で選択して購入するスタイルであり、全員に一律ご提供するわけでもないので、この点についてはご理解いただけると思い選択肢の一つとして導入を決めました。
導入後は予想以上の反応があり、お召し上がりになったお客さまからも大変ご好評をいただいています。
私は昆虫食を販売することで、事業利益が大きくなるとは正直思っていません。むしろ国際線を運航するZIPAIRが取り組むことによって、タンパク質クライシス(たんぱく質危機)などの食糧問題に対する一つの事例を世界に広め、お客さまが目にした際に、少しでも何かを感じていただけるきっかけとなればいいなと思っています。
世界中の人に応えられるように。機能性で増やす機内食のバリエーション。
―グリラスパウダー以外に新たに取り組んでいるものはどのようなものですか?
ハラル認証の機内食 については就航当初から5種類をご用意しておりましたが、2022年7月からヴィーガンメニューとして「大豆ミートのハンバーグ」と「照り焼きバーガー」のご提供を開始しました。ハンバーガーはバンズ含めてすべてヴィーガン食品です。
私はお肉が大好きですが(笑)、知らずに食べると大豆だと気づかないほどのクオリティです。もはや特殊ではなく一般的な食材になりつつありますので、食べられたことのある方も多いのではないでしょうか。
ZIPAIRが目指すのは、すべてのお客さまに平等なフライトを提供することです。すべてのお客さまがフライトを楽しめるように、「食」の面でも“味”だけでなく“機能性”でもお選びいただけるよう、今後もメニュー開発に力を入れ、増やしていく予定です。
私も常にアンテナを張っているつもりですが、トレンドに関しては結局若い方々の方が情報が早いのは事実です。今後は客室乗務員やパイロットからもアンケートを取り、よりタイムリーな提案を社内でしていきたいと考えています。
また、機内という空間はある意味“お客さまに情報を伝える理想的な空間”でもあります。そう考えると、ZIPAIRを通じて今世界のサステナビリティ事情はどうなっているのか、そのなかで「頑張っているこんな企業がありますよ」という情報をお伝えするのも私たちの責務だと思っていますので、機内サービスを通じて多くのお客さまにお届けしていく予定です。
食糧問題も男女差も、なくなってこそがスタート。
―「2030年1機まるごとSDGsフライト」という目標を掲げていますが、目標達成に向けて今後考えていることを教えてください。
今後、重点的に取り組んでいきたいのはダイバーシティ&インクルージョン(D&I)です。
既に客室乗務員の制服は複数のパターンを用意し、個別の好みで選べるようになっていますが、これからもっと多様性を理解し、認めあい、そして活躍・成長することができる働きやすい職場環境を構築した企業が生き残っていくと思います。
そのなかでも特に重点的に取り組んでいるのは、“フェムテック(女性のライフステージにおける健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービス)”です。先日も「女性活躍推進」というテーマのもとBe-A Japanさんと桜美林大学にて学生の皆さんと授業をしたり、小学校高学年から中学生の親子を対象とした、女性の心と身体に関する勉強を組み込んだ航空教室も開催したりしました。
航空運送事業のなかでの移動だけが私たちの本業であり、それ以上のものはエアラインとしてはまったくの素人として、ほかのパートナーの皆さんと共創しながらやっていく。
そうすると、私たち一企業だけではなかなか伝えられないことも、高い感度を持っている皆さんと一緒に企画・発信することで多くの方に知っていただけるようになり、新しい価値も生み出します。
そのためには、一人一人の社員が日頃から職務に関わらず、さまざまなことに興味を持ち挑戦していくことも大事なことです。そうした社員の日々の積み重ねがZIPAIRという企業の成長にもつながると思っています。
まだまだ道半ば。やるべきことは、たくさんあります。まずは「失敗すること、採用されないことは恥じゃない」という雰囲気づくり。
そういう職場環境があってこそ、アイデアも生まれるし実現できると思っています。そういった環境整備をすると同時に、何か起きたらすぐにそれに合わせることができるフットワークの良い人材を育てる。
多分どんな事業もそうだと思うのですが、たとえ失敗してもそこから何かを得ようとする、欲の深い社員を育てていきたいです。
2030年に目指す姿は、「今取り組んでいることがすべて当たり前になること。」
当たり前のように、お互いをリスペクトしていく世界を実現するために、小さなことから一歩ずつ今後もさまざまなことに挑戦し続けていきます。