#21 「強くてかっこいい人はすぐ側にいる」ことを教えてくれた先輩のお話
(1800字・この記事を読む所要時間:約4分 ※1分あたり400字で計算)
韓国語学院に入学して間もない頃、先生から「来月は発表会ですよ」とお知らせを受けた。
年に2回行われるこの発表会は、生徒の韓国語スピーチスキルをアップさせる為の学院一大イベント。
ベーシック部門とアドバンス部門に分かれており、それぞれのレベルに合った原稿作成を行い、皆の前で読み上げる。そんな行事だ。
「人前で日本語でスピーチをするだけでもままならないというのに、ましてや韓国語なんて……」と尻込みしてしまう人が続出する中、先生は決まっていつも
「上手に発表しなくても良いんですよ。
この場をくぐり抜けること、それが発表会の目的ですので」
と涼しい顔で言う。
発表会はカリキュラムの一環だ。誰も逃れられない。
当然、私も無条件で参加することになった。
初回はベーシック部門なので、簡単な自己紹介文だけを読み上げれば良いのだが、適当にさっさと終わらせたいというのが私の本心だった。
実際、そうした。
「原稿を読むだけだし」と思っていたので、事前練習もあまりしなかった。
ステージに上がり、原稿だけに目をやり黙々と読んで発表を終え、逃げるように席に戻って自分の務めを果たした。
後は、他の人の発表をぼーっと聞いていれば良い。
ーーにしても、面白いものだ。
似たような内容の発表でも、実に十人十色だ。
小道具を使う人。
アドリブを入れる人。
ジェスチャーをたくさん盛り込む人。
一人一人と目を合わせながら、生き生きと語る人。
1分足らずのベーシック部門発表だとしても、「ここまで準備してくるとは」とびっくりさせられるものばかりだった。
(なんだか、恥ずかしいな……)
そう思いながらぼんやりしているうちにベーシック部門の発表が終了し、いつの間にかアドバンス部門の発表が始まろうとしていた。
アドバンス部門のテーマは自由。
つまり、何でも好きな話題を発表出来るということだ。
気ままで楽しそうに見えるかもしれないが、ネタ考案から原稿作成まで全て自分でやらなければならない。
「自己紹介」という題目があり、且つ先生から与えられた定型文に穴埋めしていって原稿を仕上げるベーシック部門とは天地の差だ。
まさにしっかりとした韓国語の実力を身に付けている者のみが挑戦可能な部門。
日記を3行書くだけで30分以上もかかる私にとってはもう手を伸ばしても届かぬ世界に等しかった。
そんなアドバンス部門の発表者はーー1人。
一方で、ベーシック部門の発表者は20人。
人数の差が、更にアドバンス部門の難しさを物語っているようだった。
(韓国語学習における様々な難関をくぐりにくぐり抜け、見事アドバンス部門のステージに立った、そんなスゴい先輩が目の前にいる……!)
そう思うと、なんだかドキドキしてきた。
発表が始まった。
テーマは「韓国語の発音について」。
なんと、母国語で書くのにもかなりの技量を要するこのテーマを、その先輩は韓国語で書いたのだ。
さらに、先輩は原稿を見ず、スラスラ発表をこなした。
視線は、全会場へと見渡し、
マイクも使わず、響きわたるような大きな声で、
しゃんと真っ直ぐ立ってーー
そしてもちろん、発音もすごく綺麗だった。
鼓動が高まった。
(かっこいい……!)
釘付けになった。
もう韓国人そのものだと言っても過言ではないスピーチだった。
母国語でもない言語を学び、極め、この境地に達する人を初めて生で見た。
加えて、何という堂々とした姿だろう。
なんて自信に溢れているのだろう……!
たった1本のスピーチが、私の意識を大きく変えた。
私の目標は先輩になった。
「先輩と同じようなかっこいいスピーチをすること!」が夢になった。
また、あの日をきっかけに私は「強くてかっこいい人」をどんどん探し求めるようになった。
別に何かスキルが長けているとか、専門的な知識を持っているとかだけが「強くてかっこいい」ではない。
人一倍成長意欲があって、常に情熱を持っている人。
傾聴力があり、いつも優しく相手の話に耳を傾けられる人。
逆境を全て糧にし、味わい深い話でいつも周りに元気を与えられる人。
……
ただ気付いていないだけで、周りには凄い人がたくさんいたのだ。
楽しい。
ワクワクする。
一緒にいるだけで、自分もどんどん変われるーーそんな人はいつも側にいるのだと気付かせてくれたのも、先輩だ。
感謝してもしきれない。
先輩、ありがとう。
ちなみに数年後、私がアドバンス部門のステージに立ち、またかの先輩ともお友達になるのだがーー
それはまた別のお話!