和牛が食卓に届くまで
細やかで美しい霜降りが人気の和牛は日本が世界に誇る食材の一つです。
そんな和牛の生産、加工、流通の全ての過程に全農グループは関わっています。和牛に携わる
全農グループの職員たちの仕事や熱い想いとともに、和牛が消費者の元へ届くまでの舞台裏を探ります。
和牛がおいしいお肉になるまでの過程をご存じですか?
良質な和牛を育て、食肉となって消費者の元へ届くまでには、多くの人々が関わっています。まずは、おいしい和牛となるまでの道のりをご紹介します。
想いをつなげて、おいしい和牛を届けています
和牛は生産から加工、流通まで、生産者をはじめとする全ての人々の想いをつなぎながら消費者の元へ届けられています。今回は、和牛に携わるスペシャリスト6人にインタビュー。仕事の様子や想いを聞きました。
和牛の受精卵はどうやって作られる?
関根 今日は全農グループの和牛の生産から加工、流通に関わるメンバーが集まると聞いて、楽しみにしていました。
藤田 私は食肉の流通を担当しているので、それ以外の和牛に関わる全農グループの仕事についていろいろとお聞きしたいです。
関根 私もどのように和牛の受精卵が製造されているのか、とても興味があります。北海道にあるET研究所には、500頭の和牛がいるというのは本当ですか?
三浦 そうなんです。この500頭の供卵牛(受精卵を提供する和牛)に優良種雄牛の精液をかけて人工授精をし、その1週間後に採卵をして受精卵の製造を行っています。
高草木 どうやって採卵をするのか教えてほしいです。
三浦 まず手袋をして、和牛の直腸から手を入れて子宮を触ります。直
腸越しに子宮を触りながら、液体を流すとそれと一緒に卵も流れてくる
んです。これらをフィルターに集めて採卵をしています。
藤田 知らなかった! これはテクニックが必要そうですね。
三浦 その通りで、最初はなかなか子宮が触れず苦労しました……。私は研究所に入ってまだ2年目なので、もっと鍛錬が必要です。
飼料会社とクリニックで畜産農家をサポート
関根 家畜衛生研究所の坂本さんも、普段から農家さんと関わることは多いのですか?
坂本 そうですね。私は家畜衛生研究所のクリニック北日本分室というところに所属しているので、東北地域の農場を巡回して和牛の衛生検査や飼養管理の指導を行っています。あとは、JAや県本部、それからくみあい飼料の営業さんと農場にうかがって検査を行うことが多いですね。
関根 飼料会社とクリニックというのは、意外な組み合わせですね。
坂本 くみあい飼料の営業さんは畜産農家さんのところに頻繁に出入りされているので、農家さんの状況もよく把握されているんです。一緒に農場にうかがうことで、牛の健康状態や牛舎の衛生状況、飼料の給与状況など、お互いの得意分野を生かしながら、農場の飼養管理を広い視野で確認することができると感じています。
高草木 担当している農家さんの生産成績があまりよくなくて、牛舎の衛生環境の悪化や牛の病気などが疑われることがあればクリニックに相談をしています。営業担当としては、全農グループのクリニックと連携できるのはとてもありがたいですし、農家さんの安心にもつながっていると思います。
飼料原料の供給を支えるアメリカの輸出施設
蔡 私はJA全農インターナショナルの台湾事務所に駐在していたこともあるのですが、関根さんもアメリカに駐在されていたそうですね。
関根 アメリカにある全農グレインというグループ会社に2015年から4年ほど駐在していました。この会社は、トウモロコシや大豆の保管・船積施設を運営しており、穀物輸出エレベーターとして取扱量は世界最大級です。また、関連会社を含めて内陸の集荷施設もアメリカに120ヵ所以上運営しており、これらの施設を全農グループが持っているのは、飼料原料を日本に安定的に供給する上でとても大きな強みになっています。
高草木 飼料会社にとって、穀物や飼料原料を切らすことはあってはならないことなので、全農グループの中に、全農グレインや畜産生産部といった飼料原料を安定的に調達してくれる機能があるというのは安心感があります。
枝肉の格付けを基に飼料や飼養環境の改善を提案
藤田 同じ和牛を扱っているのに、知らないことも多くて、皆さんのお話が興味深いです。私は全国で生産、加工された食肉を消費者に届ける立場なので、皆さんがそれぞれの工程で大事につないでくださった和牛を託されている感覚がありますね。
関根 藤田さんは、ほかの会社とつ000ながりはあったりするのですか?
藤田 JA全農インターナショナルとは、普段からやりとりをしています。また、くみあい飼料と関わることも多いですね。私は、今年の3月に東日本営業本部に異動してきたのですが、その前は鳥取の産地営業所で枝肉を取り扱う部署にいました。枝肉を見るために、農家さんやJA西日本くみあい飼料の営業さんがよく来られていたので、お話をする機会も多かったんです。
三浦 農家さんにとって枝肉の成績は気になるところですよね。
藤田 枝肉の成績は、歩留基準値と肉質等級で決められますが、枝肉の
状態に問題があると、瑕疵(かし)というものが付くんです。瑕疵は「アイウエオカ」というカタカナで表記されます。たとえば「イ」は、ビタミン不
足によって発生するといわれているズルという筋肉水腫を指します。そのため「イ」が付いたときは、飼料会社の担当者や生産者と飼料の改良ができないかといったことを話し合ったりします。
坂本 実は、枝肉の成績や瑕疵については、クリニックにも伝わってくることがあって……。たとえばある農家さんの和牛からズルが多く発生していたりすると、私たちのところにも連絡がきて、ビタミンの添加や飼料の改善などについて飼料会社や農家さんと話し合ったりしています。
蔡 実際に牛の健康状態と肉質は関係がありますか?
坂本 そうですね。病気をこじらせてしまうと、その後の発育状況にも影響があり、枝肉重量があまり大きくならないことがあるんです。なので、日頃から病気の予防や畜舎の衛生管理を徹底することは重要で、結果としてそれが牛肉の品質にも関わってくるのかなと感じています。病気の予防や衛生管理を一緒にがんばっている農家さんから、「こんなにきれいなサシが入ったよ」と枝肉の写真を見せていただくと、私もうれしくなります。
乳牛が和牛を産む!?北海道で人気の繁殖技術とは
蔡 高草木さんにお聞きしたいのですが、日本の和牛は産地や銘柄によって味わいや脂の甘みなど特徴がある気がしています。これは飼料の違いが関係しているのでしょうか?
高草木 難しいところですね……。もちろん、飼料の影響も少なからずあるとは思いますが、それよりも血統の違いも大きいのかなと思います。ここは、ET研究所の三浦さんが詳しいのかな?
三浦 たしかに、血統の違いで脂の入り方や味わいは変わってきます。
やはり有名な血統をもつ雌牛を使って製造した受精卵は、農家さんから
の注文がたくさん入るほど、人気が出ます。
高草木 海外で人気の銘柄は?
蔡 昔から輸出されている神戸牛や松阪牛、近江牛は人気がありますね。最近は北海道の和牛も輸出量が増えています。
三浦 北海道では、酪農家が飼養しているホルスタイン種の牛に和牛を産ませる受精卵移植が、最近はやっているんです。
関根 ホルスタイン種ということは、主に乳牛ですよね。乳牛が和牛を産むということ?
三浦 そうです。和牛の受精卵を、ホルスタイン種の牛のお腹に移植して、和牛を産んでもらうんです。それもあって、北海道の和牛の頭数も増えているのかなと思います。
蔡 そんな技術があるとは! 北海道の和牛の生産量がここ数年で上がった理由がよく分かりました。
関根 今回皆さんのお話を聞いて、和牛の生産や食肉の流通の全ての工程に全農グループが大きく関わっているんだなと、あらためて実感しました。
高草木 横のつながりがあり、会社の枠組みを越えてフォローし合えるのも全農グループの強みですね。農家さんとやりとりをする中で、自分の専門外のことを聞かれても、それぞれのプロフェッショナルに話を聞くことができるのは心強いです。