【第36回東京国際映画祭】コンペティション部門総括&受賞予想
コンペティション部門総括
『正欲』60点 ★★★☆☆
【総評】
どうなんでしょう。物語としては深く興味深いはずなんですが、物足りなさが残りました。
キャストは全員素晴らしいのですが…
岸監督は前作『前科者』のときにも感じたのですが、とにかく「堅実」ではあります。ですが突き抜けるものをあまり感じないんですよね。
『エア』80点 ★★★★☆
【総評】
本作がワールドプレミアなのに驚きますが、まあこのご時世ですしね。クオリティとしては普通に劇場公開レベルだと思います。
女だからとバカにされながらも一級のパイロットに育っていく戦士を描いています。
反戦映画としての姿勢は保ちつつ、丁寧に描いていく演出は流石です。
飛行機シーンもそれなりに迫力があり、全体的な戦争描写もよかったと思います。
確かに長いですが、かと言って不必要な要素があるかというとそんなことはないと思います。静かなトーンで紡がれ、一人の女性の半生を丁寧に描いた力作です。
『真昼の女』70点 ★★★☆☆
【総評】
最初はテンポも悪いしダメかもと思っていましたが、ラストに向けて加速度的に面白くなっていった印象です。
「真昼の女に出会ったら全て話さないと心が闇になる」という都市伝説めいた設定に惹かれるし、オチのつけ方もよかったですね。
主演女優さんの顔がイザベル・ユペールに似てるなーとずっと思っていました。
でもやっぱりこの内容で137分は長い。最初のテンポが悪いのが長いと感じた原因でしょうか。
『西湖畔に生きる』80点 ★★★★☆
【総評】
『春江水暖』で電撃デビューを果たした新星グー・シャオガン監督新作です。
話も語り口も前作と全く違ってびっくりしました。もっとスローな人間ドラマかと思っていたら、マルチ商法にハマった母親を息子が助け出す話でした。
素直になかなか面白かったですね。グー・シャオガン、こんな演出もできるんだと幅の広さを証明してみせた一作ではないでしょうか。
『曖昧な楽園』80点 ★★★★☆
【総評】
この映画は物凄い賛否が分かれると思います。
個人的にはとても不思議な映画だったと感じています。
一見"ある"ようで実はそこに"ない"。あまりにも曖昧な"楽園"の境界線を、167分という長尺の中で垣間見た気がします。
『ゴンドラ』70点 ★★★☆☆
【総評】
安定のファイト・ヘルマーだなぁという感じです。映画というよりコント集みたい。ウェス・アンダーソンといいスタイルの踏襲だけになってしまっている映画はあまり好みではないのでこのくらいです。
ただ、今までとは異なり、男性に対抗する女性たち、そして女性同士の愛を描いているのが監督としては挑戦なのかなと思います。いい塩梅でそのへんは描いていてよかったです。
個人的にはそこまで好きではないけど安定して面白いです。コンペの水準作といっていいのではないでしょうか。
『野獣のゴスペル』60点 ★★★☆☆
【総評】
悪くはない。それに尽きます。
独特な作風を持つ監督を輩出するフィリピン映画としては割と普通だなという印象です。
暴力に次ぐ暴力、フィリピン社会の闇をずっとみせられます。それ自体はいいのですが、あまりに単調すぎると感じました。
『ロングショット』70点 ★★★☆☆
【総評】
デビュー作でこれは凄いですね…!
設定からしてまず面白いです。元射撃選手と少年の絆に徐々に惹き込まれていき、文字通り最後のロングショットには胸を打たれた気がします。
ただ、なんか惜しいですね。終盤銃撃戦が始まるんですが、この人がここにいたらおかしくない?とか辻褄が合わないと感じる部分が多々ありました。
元射撃選手を丁寧に描いているし、銃撃戦自体の演出は悪くなかったと思います。面白いは面白いが少し長すぎかな。中だるみは感じました。
ラストシーンは賛否が分かれますね。
『ペルシアン・バージョン』65点 ★★★☆☆
【総評】
なんだこれ!?
他のコンペ作品と明らかに毛色が違うのが非常に印象的でした。
コメディ映画として本当に良く出来ていると思います。
しかし序盤に物凄い期待感を持たせて、中盤以降で徐々に失速していくのは残念でした。
また、倫理的に納得できないご都合主義も目立ちます。母と子の和解も結局「母性」で解決してしまうし、父親(母も子も)問題は何も解決していないで終わってしまいます。間違いなくいい映画ではあるんですが、消化不良な部分が露呈してしまっているのが残念です。
『ロクサナ』70点 ★★★☆☆
【総評】
ある種のロードムービーでしたね。
物語の緩急のバランスがちょうど良い作品だったと感じています。
『タタミ』も然りなんですが、イラン政権に対する皮肉も効いていて、非常にパンチがあったと思います。
ただ、ラストがあまりに投げっぱなしです。それを描くならもっと誠実に向き合ってほしいと感じました。
全体としてはいい映画だとは思いますが、その展開をするならもっとちゃんとした着地をするべきです。
『鳥たちへの説教』40点 ★★☆☆☆
【総評】
眠くなるだろうなと思っていたらやっぱり寝てしまいました。
愛しあう男女、「猟師」と呼ばれる男の三人が出てくる、戦争により引き裂かれる男女、ということしか分かりませんでした。
『死ぬ間際』はこんなに難解じゃなかったのにどうしたバイダロフ。いや、『クレーン・ランタン』も大概だったか…
『開拓者たち』50点 ★★☆☆☆
【総評】
非常に重厚な作品だとは思いました。
直近で観たマーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』を彷彿とさせる開拓者と原住民たちの陰惨な確執を、混血の主人公の視点から追うことができました。
特に主人公・セグントの眼光が徐々に恐ろしく変化していくのは観ていて心が痛くなりました。
『雪豹』70点 ★★★☆☆
【総評】
安定のペマ・ツェテンクオリティーで好きでした。ジンパの演技がちょっとオーバーなのが気にはなりましたが。
星空に雪豹の絵面が強すぎました。惚れ惚れするほどの映像美。
雪豹と、なぜだか雪豹と縁のある僧侶がファンタジックな絆で結ばれる物語で、『心と体と』や『ライフ・オブ・パイ』なんかを連想しました。
少し話がとっちらかったのは否めないものの、とても美しくペマ・ツェテンらしい作品でした。いい作品を今までありがとうございました。
『タタミ』75点 ★★★☆☆
【総評】
『ロッキー』かと思ってたら『ミリオンダラー・ベイビー』でしたね…。
全編通して日本文化に対する熱いリスペクトを感じました。
試合は手に汗を握らされ、イラン政府から脅迫は観ているこちらまで心が痛みました。
ガイ・ナッティヴ監督の前作『SKIN/スキン』に通ずるエッジの効いたテーマで、非常に考えさせられる秀作だったと思います。
『わたくしどもは。』30点 ★☆☆☆☆
【総評】
まずロケーションが素晴らしいです。撮影がすごい。
のですが、僕はこの世界観についていけず置いてけぼりになってしまいました。あえての棒読み演技、時系列操作、ホラー演出など全てが噛み合っていないような印象です。
これは好きな人と入り込めない人がはっきりと分かれる映画な気がします。静かで自然豊かな世界観が好きな人は気に入るのではないでしょうか。
受賞予想
東京グランプリ
『タタミ』(上村・クマガイ)
審査委員特別賞
『鳥たちへの説教』(上村)/『曖昧な楽園』(クマガイ)
最優秀監督賞
『雪豹』(上村)/『ペルシアン・バージョン』(クマガイ)
最優秀男優賞
『ロングショット』(上村・クマガイ)
最優秀女優賞
『タタミ』(上村・クマガイ)
最優秀芸術貢献賞
『ゴンドラ』(上村)/『雪豹』(クマガイ)
観客賞
『ペルシアン・バージョン』(上村)/『正欲』(クマガイ)
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