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【最速レビュー】ペドロ・アルモドバル監督『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』安楽死をめぐる人生対話



<作品情報>

イングリッドとマーサは若いころ、同じ雑誌社で一緒に働いていた親友同士だった。イングリッドは小説家になり、マーサは戦場ジャーナリストになり、別々の人生を歩むことに。何年も音信不通だったふたりは、不思議な縁に導かれ、再会を果たす。

https://2024.tiff-jp.net/ja/lineup/film/37005WFC15

<作品評価>

75点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆

<短評>

おいしい水
非常によかったです。アルモドバルはどうもしっくりこない作家なのですが、これまでで一番よかったかもしれません。個人的にはアルモドバルのベストです。
初の英語映画ということで期待半分不安半分でしたが、自分が日本人ということもありそこは違和感なく受け入れられました。
ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの演技が実に見事です。どちらも演技巧者ということは周知の事実ですが、その期待に十分応える名演を見せていました。
安楽死を望むスウィントン演じるマーサ、戸惑いながらも手助けしようとするイングリッド、両者の心の機微を豊かな色彩とともに描ききっていました。
いつものことながら色鮮やかな美術や衣装は見事なもの。クラシカルで上品なアルモドバルの演出によって安楽死というテーマが切実さを持って浮かび上がってきます。
この世界観をずっとみていたい、そう思わせてくれる作品でした。ラストは案外あっけないものですが、最上の終わらせ方だったように思います。一人二役のスウィントン、流石カメレオン役者です。
確かに金獅子賞にしては弱い気もしますが、今までで一番しっくりきた作品として納得度は高いです。個人的には今年ベスト級(公開は来年だが)の作品になりました。

クマガイ
うーん。普通。
正直ちょっと期待外れでした。
初アルモドバルなんですけど、すごい洗練された映画なのはなんとなく分かりました。
ファッションやインテルアデザインなどの独特な色彩感覚には見入るものがあります。
また、顔を主体にしたアップショットやバストアップショットが異様に多いにも関わらず、それらが目につかずに違和感なく見れたのも巧みだなと感じます。とりわけ作中何度も登場するティルダ・スウィントンの象徴的な顔面のアップショットは印象深いです。
ただ、地味ですね。
ジョン・タトゥーロが作中でも触れていた「老成すること」の意味が何となく悟ります。おそらく30-40代くらいになって、もっと審美眼を鍛えると面白く感じられる映画なのかもしれません。

吉原
冒頭、サイン会のシーンから始まり、そこへ訪れた友人から共通の友人が癌で闘病していることを知らされます。何の変哲もない冒頭のシーンなのですが、不思議と心惹かれました。
久しぶりの友人との再会では語るべきことが多く、10代の時に妊娠した娘との関係や、その娘の父親との関係と別れなど、さまざまなことを聞かされます。ジュリアン・ムーア演じるイングリッドは、自ら語ることは少なく、ティルダ・スウィントン演じるマーサの話に耳を傾ける姿が印象的です。
芸術作品に多く触れてきたのであろう2人のキャラクターの対話は非常に静かですが、心の内ではさまざまな感情を感じ取ることができます。これは役者の演技力のおかげに他なりません。本当に素晴らしい演技でした。
本作は安楽死をテーマにしているので、その可否を問うような内容になっているのかと思いましたが、個人的にはあまりそのような作風には感じませんでした。死の受容よりも、今ある生(性)を全力で受け止める、いわば人生讃歌の映画だと感じました。
その一方で、宗教的に安楽死(自殺)を受け入れられないキャラクターが悪として描かれている点は見逃せません。結局、自分自身の生き方を決めるのは、その人自身でしかないのかもしれません。
また、バスター・キートンの『セブン・チャンス』と、ジェイムズ・ジョイス原作、ジョン・ヒューストン監督の『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』について作中で触れられており、後者は作品の中で重要な役割を担っていますが、日本で気軽に観られる作品ではないことがもったいないと感じました。
本作でも触れられていたラストの語りが非常に素晴らしい作品だったことに加えて、昨年一部の劇場ではヒューストンの特集上映も行われていたようです。今作を機に、配信等で観ることができないものだろうかと考えさせられました。
ヴェネチアで最高賞を受賞した作品としては少し薄味ではありますが、名優2人の演技は間違いなく賞に値するものです。アルモドバルの作品は好き嫌いがかなり分かれることが多いですが、本作は個人的にはかなり当たりだったと思います。

<おわりに>

 好きな人は多い映画ではないでしょうか。アルモドバルの落ち着いた語り口が素晴らしい傑作です。

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