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シアン・ヘダー監督『コーダ あいのうた』コーダとして生まれた少女
<作品情報>
家族の中でただひとり耳の聞こえる少女の勇気が、家族やさまざまな問題を力に変えていく姿を描いたヒューマンドラマ。2014年製作のフランス映画「エール!」のリメイク。海の町でやさしい両親と兄と暮らす高校生のルビー。彼女は家族の中で1人だけ耳が聞こえる。幼い頃から家族の耳となったルビーは家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、合唱クラブに入部したルビーの歌の才能に気づいた顧問の先生は、都会の名門音楽大学の受験を強く勧めるが、 ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられずにいた。家業の方が大事だと大反対する両親に、ルビーは自分の夢よりも家族の助けを続けることを決意するが……。テレビシリーズ「ロック&キー」などで注目の集まるエミリア・ジョーンズがルビー役を演じ、「愛は静けさの中に」のオスカー女優マーリー・マトリンら、実際に聴覚障害のある俳優たちがルビーの家族を演じた。監督は「タルーラ 彼女たちの事情」のシアン・ヘダー。タイトルの「CODA(コーダ)」は、「Children of Deaf Adults=“耳の聴こえない両親に育てられた子ども”」のこと。2022年・第94回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞(トロイ・コッツァー)、脚色賞の3部門にノミネートされ、同3部門を受賞。ルビーの父親フランク役を務めたトロイ・コッツァーは、男性のろう者の俳優で初のオスカー受賞者になった。
2021年製作/112分/PG12/アメリカ・フランス・カナダ合作
原題または英題:CODA
配給:ギャガ
劇場公開日:2022年1月21日
<作品評価>
70点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆
<短評>
おいしい水
個人的にはオリジナルの方が好きですが、上手くアメリカナイズしていると思います。
まず家業をフランス版では酪農でありますが、本作では漁業です。アメリカの片田舎の漁村を舞台としたことで「水」というのがこの作品を貫く大きな軸になっているのが上手いです。
手話なのに賑やかでやかましい家族というのを見事に体現してみせた役者陣は素晴らしいですし、特にトロイ・コッツァー、これはマーリー・マトリンより有力とされるのが分かるなという存在感でした。
オリジナルを知ってればオチというか泣きどころは分かるのですが、それでも涙を抑えきれなかったです。
エミリア・ジョーンズの歌声は素晴らしく、間違いなく今後飛躍する女優だろうと思います。
ただ、これを今リメイクし、ここまで評価するほどか?というのは思いました。監督のシアン・ヘダーは次回が勝負だと思います。これは元のモチーフが強かった。もちろん過不足ない技量で演出はできているのですが、オリジナルでどれだけ作家性を出せるかこれから期待したいと思います。
吉原
6年半前、TOHOシネマズのフリーパスを初めて手に入れた高校1年生の秋、私は最終日に観る作品を選んでいました。本数を多く観るためには、ちょうど良いスケジュールを組む必要があり、特に興味のない作品をスケジュールに入れて観ることもありました。そのような場合、ハズレを引くことが多かったのですが、その中で当たりを引いた作品がフランス映画でした。耳の聞こえない家族の中で唯一耳が聞こえる少女の物語で、高校1年生という年齢にも関わらず涙を流したことを覚えています。それが本作のオリジナル版『エール!』でした。
この6年半の間、私は何度もこの映画を他の人に勧めてきました。そして、リメイク版がオスカーにノミネートされたと聞けば、観に行かないわけにはいきません。上映が1日1回になってしまった頃、ようやく鑑賞しました。
率直な感想としては、オリジナルの方が好きだと感じました。ストーリーは大まかに同じですが、設定や描写に違いがありました。アメリカナイズされていること自体には何の問題もありません。むしろ、リメイクの良さはこうした変更にあるのだと思います。しかし、オリジナル版にはアメリカ版にはない印象的な付加価値があるように感じました。それはフランス映画であるという点です。当時、私は普段フランス映画を観ることが少なかったので、その出会いが非常に大きな意味を持ちました。しかし、本作は舞台をアメリカに移すことで、どこか見慣れた普通のハリウッド映画になってしまった感も否めません。また、この物語との再会という点も大きかったのでしょう。
とはいえ、ラストシーンではしっかり泣けましたし、最近では『サウンド・オブ・メタル』や『エターナルズ』で聴覚障害者への関心が高まっている中でのこの作品の公開やオスカーノミネートには大きな意味があると思います。下ネタも含まれていますが、教育的にも優れた映画だと思います。
<おわりに>
配信映画として初めて作品賞をとったことで歴史に残る作品です。フランスのオリジナル版もおもしろいのでオススメです。
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