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チームメンバーと接する時の「メンタルを保つコツ」
前回のnoteでは、チームメンバーとの関係づくりや面談時などに役立つ「問い(かけ)」の重要性と、その具体的な手法について紹介しました。
とはいえ「合わないチームメンバーとの信頼関係を築いていくなんて、自分のメンタルを保ちつづける方が大変…。」「適切な問いって、どうやって考えれば良いのだろう」~と、実際に行動にするにはさまざまな疑問や不安が浮かぶ方も多いと思います。
そこで今回は、企業のエグゼクティブやプロスポーツ選手のメンタルコーチ・カウンセラーとして活躍されていると松下 信武 先生のご協力のもと、「メンバーコミュニケーションにおける感情のコントロール」「フィードバックの重要性」について詳しく見ていきたいと思います。
松下 信武 氏 ゾム代表取締役。心理学者であり、経営者に対峙するエグゼクティブコーチ・アスリート対応のメンタルコーチとして多方面で活躍中。
1. 自分の中の「仮定(思い込み)」は一旦外へ置いておく
留岡(以下、「留」):チームメンバーとの1on1(面談)のときって、上司・部下どちらかの感情が波立つことがありますよね。先生は「感情のコントロール」について、どういうお考えをお持ちですか。
松下先生(以下、「松」):人はどうしても、自分なりの解釈でしか物事を見られないわけです。例えば「きっとこう思っているんだろうな」とか、「どうせちゃんと考えていないだろう」とか。でもこれは、自分の中の「仮説」に過ぎませんよね。
まずは「すべては自分の中の仮説に過ぎないのだ」ということを上司自身が認識しておくことです。それによって一旦冷静になれると思います。
留:そういえば、メールが相手から全然返ってこなくて「忙しいのかな?それとも何か理由があるのかな」と心配して相手にそう聞いてみたら、「迷惑メールに振り分けられてしまっていた」と言われて「なーんだ」と(笑)。相手も自分も悪気はない。それに近いものがありますね。
留:そしてそれを仮説と理解し、その仮説を補助線にして「僕はこう思ったけど、どう思う?」と問いかけ、自身の未知部分について相手により考えること促す感じでしょうか。
松:そうですね。そのように継いで行くことも有りと思います。
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2. 上司の仕事はチームメンバーが「勇気」を持てるよう成長を促すこと
留:忙しい上司にとって1on1(面談)などの時間が悩ましいのは、限られた時間の中で未来のことを頭に置きつつ目の前のチームメンバーのことを考えて、良い問いを繰り出さなければならないことではないでしょうか。
松:私は多くの経営者を見てきましたが、彼らに共通するのは「中道の勇気を持っている」ということ。猪突猛進でもなく、かといって臆病でもない、バランスの取れた「勇気」であり、これがビジネスを成長させていくには不可欠の要素だと思っています。ですから、上司の仕事とはチームメンバーにこの「中道の勇気」を与えられるようにすることを頭に置いて、問いかけることをおすすめします。
また、勇気というのは「怖れるものがない状態」を指すのではなく、「怖れながらも前に進んで行こうとする精神状態」と捉えた方が良いですね。
留:なるほど。自分自身にもその精神状態を作ることを目指しつつ、チームメンバーにもそれをベースにした問いかけをするイメージですね。
3. 観察は「全てを見ようとしない」
留:ほかにも忙しい上司のよくある悩みといえば、「チームメンバーと信頼関係を築くために、よく観察しなさい」と言われても、忙しくてできないということ。特にチーム目標未達の時など尚更です。先生はどのように考えますか。
松:私もよくそういった声を聞きます。でも、それはたいてい全部を見ようとしているからなんですよ。スポーツの場合、優秀なコーチほど観察力が優れているのは、「ここさえしっかり見ておけば大丈夫」というポイントをあらかじめ決めているから。あと、私はしっかりと表情を見るようにしていますね。
留:すごくわかります。業務によって観察するポイントは違ってくると思いますが、具体的な観察方法があれば教えてください。
松:やはり課題を与えるのが良いと思います。営業だったら「どれだけお客さんの困りごとを聴いてこられたか」など。観察ポイントがクリアになると、部下もそこに集中することができパフォーマンスも良くなっていきます。
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4. 自分も振り返りながら、都度フィードバックをする
留:面談でも日々の観察においても、僕は「フィードバックをどう行うか」が重要ポイントの一つと思っています。
松:その通りです。その場でフィードバックできると一番良いですが、そうできない時も多々ありますよね。そこで、面談中でも終わった後でも、いつでも気づいたことがあればちょっとメモをしておいて、また他の場面で本人にフィードバックする。
私自身もコーチングをした後で、内容を振り返ってからわかってくることがあります。そういう場合は、その内容に応じて文献を紹介するなどの形でお返しすることもありますね。
留:そうなんですね。チームメンバーに対しては、基本的には口頭でフィードバックすることになりますが、それはどうでしょうか?
松:そうですね。ケースバイケースだと思いますが、忙しいなか文章を打つのも大変ですし、メールだときつく感じることも多いですからね。さらりと「あの時ああいうことを言っていたけど、気になってさ」と声をかける方がいいかもしれません。
5.「問いかけ」と、「問いほぐし」とは
留:私は、ズバッと核の部分に迫る「問いかけ」とそこに行くための回し打ちとして「問いほぐし」という言葉を使って二つに分けて考えているのですが、先生はどう思われますか。
松:私自身、人生で何度か衝撃的な問いかけを受けました。その経験を踏まえて考えてみると、そういう方の観察眼はやはりとても深いです。どのようにしてその観察眼を培ったのかは定かではないですが、いずれも人生経験の豊富な方でした。
よく見て、そして絶対に(自分の中で)妥協はしない。本当に言うべきことはちゃんと伝える。そういうことが指導者にとっては大切なのではないかなという気がします。
留:そうですよね。それが「問いかけ」であるならば、その観察の過程をサポートする小さな問いが「問いほぐし」と私は捉えているのかもしれません。
自分の信念を持つことは大切ですが、現場ではそれをできるだけ押し付けがましくならないように柔らかく対話し、相手の未知に光を当てることを重視したいと思っています。
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6.まとめ
組織にはもともと人を育てる機能が備わっています。
特に、マネジャー(管理職)の役割を果たす中で、大きく成長し、リーダーとして一段と成長した人を多く見てきました。しかし近年、「管理職は罰ゲームだ」と揶揄されることも少なくありません。
成果の達成や部下の育成など多くの責任を負う一方で、コンプライアンスや働き方改革の影響で行動の制約が増えていることが背景にあります。
こうした状況を踏まえると、組織としてマネジャーがより動きやすくなる仕組みを整えることが重要です。同時に、マネジャー自身も「問いかけ」の技術など、マネジメントの武器を身につけることが、納得感のあるキャリアを築く助けになるのではないでしょうか。
今回と前回の拙文が、その一助となれば幸いです。
前編はこちら↓