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創作落語「鳩を飛ばして」

■鳴り物入り(出囃子)

「えー、世の中で『楽しみ』というものはきっととても大事なもので。
これがあるから頑張れる。これを楽しみに1週間を過ごしている。
なんてものがあると、小さな嫌なことは結構我慢できたりするものですな。」

「私には、それが日曜日のテレビドラマでございまして、
日曜日の『半沢直樹』と『麒麟がくる』なわけでして、
しかも本日は日曜日、もう続きが気になって仕方が無いわけです。」

「特に大河ドラマの『麒麟がくる』どうして結論がわかっているのに
あんなに毎週楽しみにしてしまうんでしょうね。」

「高校生の時に大河ドラマで『秀吉』をやっていたんですよ。たしか1996年で
私が高校1年生の時です。クラスでも見ている人が結構多くて、話題になる訳です。
たぶん視聴率が30%近くある回が多くて、多くの人が楽しみにしているドラマだったんですね。」

「そんな高校生時代、ある月曜日にクラスの女の子がブリブリ怒っている訳です。理由を聞いたら
『楽しみにしていた秀吉の次回予告が【信長、死す】だった。ネタバレされて超最悪。』なんて言って膨れている訳です。中学生の歴史でも本能寺出てくると思うのですが、こんな時になんて声をかけていいか、わからないですよね。」

「まさかこの会場で同じようにネタバレ超最悪。とか思っている人いないですよね…。」

「私も、ものの分別ってものを一応わきまえているつもりですから、舞台の裾から会場を見てみて、今日のお客様は『聡明なお顔をされている方』か、そうでは無いのかをキチンと毎回判断させてもらっているんですね。」

「本日のお客様は、こうしてここに座って改めて見回していただいても、やはり皆様、お顔がキラキラと輝いていらっしゃって非常に聡明でいらっしゃる。」

「毎回、聡明なお客様ばかりではないんですよ。そういう時にはそれなりの話のマクラというのがございまして、まあ次回の話のマクラにも今回と全く同じ事を話しているかもしれませんが、その場合には私にも話のフォローというのと立場がございまして。」

「誰かがね何か、しまった!と余計な一言を言ってしまった場合にも、『〇〇さんは、器が大きい方だから、こんなことで怒る訳が無いじゃないか。』とすぐにその人に聴こえるようにわざと大きい声で言ってフォローするとか、立ち回りとか処世術はいろいろとあるわけです。」

「『麒麟がくる』でも桶狭間の戦いの前に信長が敦盛を舞っていましたね。」

「『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり』
私はもう今年で40歳ですよ。もうね、本当にあっという間でしたよ。
そんな私もさきほどお話しましたように高校生の時代があって、そして昨年、同窓会だったんですよ。」

 * * * * * * * *

「それでは、卒業20年の同窓会でみなさんに元気にお会いできた事を祝しまして乾杯!」

「乾杯!」

「それにしても、なんでこうして女子が集まってこないものかね。さっき、『あそこのテーブルはめちゃめちゃ濃いテーブルだから気をつけようね。』なんて指さされていたからね。」

「気をつけるって何を気をつけるんだよ。全く。」

「それにしても濃いメンバーが集まったテーブルだね。刑事、刑事2、社長、生徒会長…。キャラが立っていないのは僕だけか。」

「取り調べをされそうだよね。この席。たしかにここに座ったら最後な気がするよ。」

「今日、同窓会に出席しようか、すごく迷っていたんだよね、それで結局欠席に〇をつけて同窓会には行かなかったんだけど、何回も何回も携帯に連絡あるから、根負けして2次会の居酒屋にはこうして来ちゃったよ。」

「そうしたら、まさかこの席だったとは…。」

「そうして、今、こうして尋問をされていると。」

「そうだね。」

「O君は卒業をしてから何をしていたの?」

「うん、これやっと打ち明けられるんだけど、どうしてもいきたい国立大学があって。」

「うん。」

「浪人したんだ。しかも1回だけじゃなくて、諦めきれなくて何回か。」

「大変だったね。でも大学は行ったんだよね。」

「うん、結局、何回か浪人した後に違う大学になったけどね。」

「あれ?会長は大学どこに行ったんだっけ?」

「僕は大学に行っていないんだ。夜間の短期大学に通ったの働きながらさ。」

「えっ。めちゃくちゃ意外。会長、補講とか受けていなかったじゃん!」

「そう、あれはね。マジック。会長マジック。8点でも補講にならないから凄いよね。10点満点じゃないからね。」

「ズルいなぁ。俺、たぶん会長の倍は点数取っている気がしたけど、補講呼ばれてたよ」

「でも、テストの平均点25点とかで、問題のレベルめちゃくちゃだったよね。あれ、今のテストとかだとどうなっているんだろう。」

「そういう時代だったんだろうけど、進学校なのに自由すぎたよね。バイクで学校行っている人もいたし。」

「それ、俺だろ俺。」

「結局、バレて停学になってたじゃん。」

「あはははは、今日S先生、同窓会に来ていたよ。あれだけ歳を感じさせない先生は凄い。」

「きっとロボットなんだよ。バイクも絶対、見つからない場所に止めていたのにバレちゃうし。」

「会長はそういう失敗とか無いでしょ。」

「めちゃくちゃあったよ。何回も。」

「あったの?」

「あったよ!僕はバイクとかそういうのは無いけど。一番ヤバイ時も会長マジックで注意処分。」

「でた!また出ました。会長マジック。」

「なんなんだよ、会長マジックって。」

「会長、常に楽しそうだから、病んだりしなさそうだから、うらやましいわ。」

「もうね、めちゃくちゃ病んでたよ。ピークは高校3年生の時。」

「どうして?」

「親の仕事が無くちゃって潰れてさ、ある日突然深夜の警備員とかする訳。いい歳の親が、しかも毎日仕事が入る訳でも無い日雇いの仕事でさ、大丈夫とか言われても、全然大丈夫な訳ないじゃん!ってやっぱり思う訳。高い学費を払って大学に行く意味がわからなくちゃってさ。」

「それで、どうしていたの?」

「勉強するって家を出たけど、全然勉強に身が入らなくて遊んでばかり。みんなは勉強しているのに僕は何をやっているんだろうって、ますますモヤモヤしちゃってさ。」

「モヤモヤしちゃってどうしていたの?」

「学校では、学習室を抜け出しては校舎裏にいって、鳩を見てぼうっとしていた。」

「凄い意外!全然、そんな風に見えなかったけど。」

「やっぱり、イメージが大事だから、病んでる生徒会長がいたら、他の人にも伝染する気がしていて、誰か人の気配を感じたら、見つからないようにさっと隠れて、気配を消していた。」

「何その遊び。すごいね、1人かくれんぼ。1人対学校全員じゃん。」

「ある時にさ、いつものようにパンくず持って隠れながら、隠密行動して校舎裏について鳩に隠れて餌をあげながら愚痴っていたの。そしたらさ。『お前、何やってる』って声がするわけ。」

「叫んだでしょ!何それ超面白いんだけど。誰が声をかけてきたの。」

「体育教師のA先生。あの先生、剣道部の顧問もやっていたでしょ。剣道部の体育館の近くだから、コソコソと定期的に隠れていく姿をどこかで見て、見つかったんじゃないかな。」

「それで。」

「地球上の時が停止した。」

「何それ。」

「本当にビックリするぐらい、結構、固まっていたよ。どちらも何もしゃべらずに。」

「それで。」

「A先生が『鳩好きか?』とか突然聴いてきて『はい好きです』って答えたら、
そのまま卒業アルバムの写真撮ることになった。生物部の1人として。」

「あーーーーーーー!!!あった!!!そういえばあったよ!今、思い出したよ。」

「そうだよ。その時にО君と一緒に、鳩小屋の前で撮影したじゃん!あの時、先生はわかっていたのかな。僕のモヤモヤとした気持ち。でもさ、いきなりすぎてめちゃくちゃビックリしたよ。鳩小屋の前で待たされて、モヤモヤしているのに、より気持ちがモヤモヤしてきて、カメラマンの人は『表情硬いですよー』とかにこやかに話しかけてきてくれるけど、鳩を実際に触ったこと無いのにいきなり撮影だからね。」

「どうしていきなり卒業アルバムの写真撮影になったの?」

「確か、あの日がセンター終わったばかりの卒業アルバムの写真撮影日で、A先生がプールの横に独自に鳩小屋を持っていたらしいんだよね。しかもレースに出す伝書鳩で、血統とかもあって、レース上位の結構すごい鳩みたいで。だけど、老朽化だったか、先生の異動だったかで、結局取り壊すことになったみたいで、記念にで撮影できたみたいだよ。」

「凄いなA先生マジック!」

「A先生マジック。強面のA先生だから、パワープレイでねじ込んだのかもね。」

「1回もエサやりとかもした事が無いのにちゃっかり『生物部』になってたよ。」

「あの写真、めっちゃ表情が硬くて何回も取り直したはずなのに傑作なんだよな。」

「伝書鳩を小屋から出して持たせようとするんだけど、いつ鳩が逃げ出さないか、本当にビクビクしてたよ。鳩すごいから、全く逃げなかったけど。さすが血統書付き。」

「鳩飛ばしたのか。」

「えっどういうこと?」

「刑事用語かもしれないけど、容疑者とかが取り調べの前に、お互いの口裏を合わせている時があって、そういうのを『鳩飛ばす』っていうんだよ。」

「卒業写真のあの写真をみる度に、あの時のシーン、思い出すんだよなぁ。」

「あの時の鳩、どうしているのかな。A先生、元気かな。」

「あの先生なら大丈夫でしょ。竹刀を持って誰かを今も追い回しているよ。」

「定年後に。」

「うん定年後でも元気に。」

「おいおいどうした『鳩が豆鉄砲を食ったようのような顔』して。」

「お店の窓の外にさ。」

「うん、外に。」

「鳩がこっちを見て止まっていたような気がしてさ。」

「…。さぁ、先生の素晴らしいお人柄と思い出話をなくなく切りあげようか。」

「つまりあれだ、あんなに良い先生はいない。」

「うん、あんなに良い先生は出会ったことがない。」

「さて、そろそろ俺らは自分の巣に帰りますか。」

「鳩は空に逃げ出さなくなくても、私達は空に。」

「うん、空に。」

「捕まって鍵つき小屋に入れられないように鳩を飛ばして逃げ出そう。」

 * * * * * * * *

書いてみたけど、どうでしょうね。もし自分が仮に1席をやるとしたらで、マクラから書きました。

以前書いた、多く読んでもらった話の下記と連動しています。

【#キナリ杯】ハトを飛ばして1日ハト部になった話 

よろしければ、このnoteも見てみてください。

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石澤大輔
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