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未来で待ってる。「時をかける少女」(2006)

これを細田守の最高傑作と思ってしまうのは、僕の感性が古いからだろうか。

でも、いいもんはいいから仕方ないよね。

「コレジャナイ感」がない青春映画

何がいいって、誤解を恐れずにいうと「コレジャナイ感」がないことに尽きると思うんですよ。
脚本・演出・設定・キャラデザ、すべてにおいて。

映画って、鑑賞する側になるべく「こうだったら良かったのに」と思わせないことが大事だと思う。

残念ながら、「竜とそばかすの姫」には「こうだったら良かったのに」と思った部分が何箇所もあった。あくまで僕個人の意見だけど。
もっとテーマを絞れば良いのにとか、竜の正体は別の人の方が良かったのに、とか。

「時をかける少女」にはそういう要素が一切ないんですよね。
メインの登場人物は3人で丁度良いし、サブキャラクターも全員に必然性がある。"青春"というテーマを描くのに98分という尺も丁度良い。
ある程度旧作へのリスペクトがあるのもいいし、SF要素の取り入れ方もいい塩梅。
結末の投げっぱなし具合も丁度良い。これぐらいが受け手に色んな要素を想起させるし、かと言って説明過多な感じもない。


シンプルなストーリー×細田守演出の妙

当然タイムリープの要素が絡んでいるものの、ストーリーの主軸は実にシンプルです。
主人公・真琴の心の揺らぎと成長を、同級生である千昭・功介との関係性の変化を通して描き出す。

筋書きはこんなにも単純なのに、コロコロ変わる真琴の表情や活き活きと動くアニメーション、心情を表す演出にどんどん引き込まれる。

やっぱり、アニメの魅力って実写にはできない誇張表現だと思うんですよ。
タイムリープした直後に派手に転がる、初めてのタイムリープのワクワク感、水泳の飛び込み台の上でジャンプ、坂道を転げ落ちる痛そうなシーン、終盤の夜空に向かって身を投げ出すようなタイムリープ…
この辺り、細田守のアニメ監督としての演出が冴え渡っています。

僕個人の意見ですが、細田監督は物語をつくることより面白い話を演出する方が得意なんじゃないかと思います。
僕は細田監督の最高傑作といえば本作か「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」だと考えていますが、どちらも脚本を書いたのは細田監督ではないし(「時かけ」が奥寺佐渡子、「デジモン」は吉田玲子)。
「サマーウォーズ」なんて「デジモン」の焼き直しみたいな内容だけど、やっぱ面白いもんね。


やっぱ恋愛ものは男がカッコよくないと

主人公の真琴が愛らしいことはもちろんなのだが、この作品は男性キャラが魅力的に描かれているのが特に印象的。

真面目でクール、けど誰よりも友情を重んじる一本気な功介。
ちょっと悪そうだけど真っ直ぐで、真琴を誰よりも大切にする千昭。

この二人とその間にある友情を魅力的に描けていることが、この作品の良さを数段上に押し上げている要因と言える。

細田守作品はこの後「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」「竜とそばかすの姫」と続いていくわけですが、個人的にはこの2人を上回る魅力を持つ男性キャラは現れていない
あくまで個人的な見解ですが。


行間を読ませる、感じさせる脚本と演出

この作品、特に終盤の展開が神がかっています。

特に、奥華子の挿入歌「変わらないもの」が流れ出してからの展開は素晴らしい。あのタイミングで回想シーンを入れてくるのはズルい。笑

そして、最後の千昭のセリフ「未来で待ってる」
このセリフをチョイスした絶妙さ。

千昭は相当先の未来から来ているはずなので、実際に真琴と再開することはないわけです。
なので、おそらくは千昭が見に来たという未来ではなくなってしまっている絵画を通じての再会を意味しているのでしょう。
ただ、そこに内包されたニュアンスはそれだけではないはず。

この言葉を額面通りに捉えてしまうと、真琴の「走って行く」という返答は全く噛み合ってないもんね。

でも、この会話を聞いて「噛み合ってねーな」なんて思うこと人はほとんどいないはず。

真琴のキャラクターやこれまでの行動と成長、千昭の気持ちを考えるとこの流れが非常にしっくりくるんですよね。
この行間を読ませる、感じさせる脚本と演出が見事だと思います。


よくよく考えれば、物語に細かい矛盾や気になる点はあります。
千昭が過去に来た理由が共感性に乏しいとか、やがて未来に帰らなきゃいけないことを自覚していたにも関わらず真琴に告白した千昭は結構勝手な男なんじゃないか?とか。笑

でも、この作品は細かい矛盾を忘れさせてくれるぐらいの魅力に満ちているんですよね。

青春アニメ映画の傑作だと思います。
もう一回細田監督の王道青春もの観たいなあ。

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