
映画「14歳の栞」の中に、あの頃の自分を見つける
"発想の勝利"という言葉がこれほど似合う映画もそれほどないだろう。
とある中学校の2年6組に密着、在籍する生徒35名の日常を捉えたリアリティ映画。
主人公がいるわけでも、具体的なストーリーがあるわけでもない。
ただひたすらに、中学2年生の50日間を追うだけの作品。
この作品、とにかく企画内容が素晴らしい。
出演している中学生たちはもちろん個性豊かで素晴らしいんだけど、多分別のクラスに密着していたとしてもそれはそれで良い作品が撮れていたと思う。
それぐらい「中学2年生のクラス全員に密着」というコンセプトが完成している。
この着想を得た時点で勝ち確だったと言っても過言ではないのだ。
まず"14歳"という年齢に目を向けた点、これが絶妙である。
13歳だと幼すぎるし、15歳だとそろそろ高校生。
悩みの方向性も進路のことに傾きがちだと思う。
絶妙に子供と大人の間で揺らぎが生じる年齢である14歳。ここに目を向けたのが素晴らしい。
そしてもうひとつ、この作品は非常に編集が上手い。
35人の生徒に密着する姿を間延びさせずに見せるのは中々難儀なものだと思うが、この作品はそこをうまくクリアしている。
カメラアングル、空撮の使い方、各生徒の繋ぎ、音楽の入れ方、どれもこれもオシャレ。
テンポも早くて、30秒のCMを1時間半観ているような新鮮な気持ちになる。
とある生徒から見た記憶が、別の生徒の視点からもう一度描かれたりする構成も面白い。
ストーリーがほとんどないはずなのに、各生徒のカットがリンクしたりするのに不思議なドラマ性を感じてしまう。
ドキュメンタリーとフィクションの合い挽き、いいとこ取りと言った雰囲気だ。
ラストシーン、クリープハイプの「栞」が流れるシーンはなんだか泣きそうになってしまった。
よくよく考えてみると、この作品は”何も起こらない”からこそ良いのかもしれない。
青春なんて、本人にとって特別でも他人から見たら何でもないことの繰り返しだ。
この作品にはそんな何も起こらない、けど戻ってこない特別な時間が詰まっている。
作品終わりの中に”実在する生徒なので各個人への批評はご遠慮ください”と注意書きされていたので出演した生徒さんへのコメントは控えておきます。
ただ、この映画を観た人は誰もが14歳の頃の自分を思い出すと思う。
自分はどんなポジションにいたか、何を考えていたか、誰と仲が良かったか…
見ず知らずの14歳の少年少女たちに感情移入せずにはいられなくなるのだ。
この映画の中には、確かにあの頃の自分たちがいる。
そう言った意味で非常に稀有な作品であり、個人的にはかなり楽しめた。
やってる映画館が減りつつあるので、観たい方はお早めに。