あの頃より、少しはマシな男になったよ。
正直に言うと、人を傷つけることをあまり何とも思っていない時期があった。
多分、23歳から27歳の間ぐらい。
主に色恋方面で、ここに書いたら引かれそうなこともそこそこしていたと思う。
その頃の僕は、紛れもなくクズだった。
でも、悲しいかなクズって割と需要があって。
自分の給料や貯金を一切把握していない、女の子のためにお店も探さない、並行して色んな女の子と遊ぶ。そのクセ口だけは達者というクソ野郎っぷりだったけど、約35年の人生で一番モテていた気がする。
その頃の僕は、自分を特別な人間だと思い込んでいた。
クリエイティブな仕事をしている顔をして、ちょっとモード目な服を着て。大した人間でもないのに自分は人を選ぶ側の人間だと信じて疑わない。
自分は他の人とは違う、全身でそう主張しているすごいイヤな奴だった。
「君ってさ、想像力がないよね」
そんな僕の鼻っ柱をへし折ったのが、当時好きになったその子だった。
かわいい顔をして、僕が一番言われたくない言葉をズケズケ言ってくる。
何とか彼女と付き合うことに成功しても、僕は完璧主義の彼女を中々笑顔にすることができなかった。
「君ってさ、私の話何も覚えてないよね」
僕は、他の女の子と遊ぶのをやめた。
その子に集中していないと、話している時に色んなボロが出てしまう。
「ここのお店、絶対予約できたよね。
なんで電話一本しないの?」
お店を、自分で探して予約するようになった。
彼女は、事前に予約できる店で順番を待つのが嫌いだった。
「いつ会えるか会えないの、すごくイヤ。
私にも私の都合がある」
彼女のために、クリエイティブな仕事を辞めた。不規則な仕事を辞めて、約束を守れる男になりたかった。
「好きな子を迎え入れるのに、
この部屋の汚さはないんじゃないの?」
ほとんど片付けなんてしたことのなかった自分の家を頻繁に掃除するようになった。
綺麗好きの彼女は、家が汚いとすごくイヤそうな顔をした。
僕からしたら、これまでしたことのない努力もたくさんした。
「やっぱ、もう無理だと思う。
私と君って、根本から違うもん」
それでも、ダメなものはダメだった。
僕は、何も特別なところなんてない普通以下の男だったのだ。
その頃から、そろそろ8年の時が経つ。
今の僕は多分真面目な方だし、お店も予約するし、時間はめちゃくちゃ守るし、部屋も普通に掃除する。
それに、自分には何一つ特別なところなんてない。それを理解したからこそ、努力をするようになった。
僕を大きく変えてくれたのは、間違いなく彼女だと思う。
もう、今は何処で何をしているかも分からないけど。
多分、あの頃よりは少しはマシな男になったよ。