へっぽこぴーりーまん書紀〜2社目編 11話
(→前編より)
クラスJシリーズ不採用前夜
売れに売れていたクラスJシリーズ不採用。
その場面は中国地方の某ホームセンターだった。ボクの予算のなかでは上位に入るメイン顧客だった。
それまで競合の水筒は採用されていたが、あくまでメインは自社の製品だった。
担当バイヤーは有藤氏。有藤氏は30代なかばのやり手のバイヤーだった。
提案前に、問屋と打ち合わせ。
打ち合わせた上で、有藤氏との選定会前の打ち合わせ。
競合メーカーの製品は別の仕入先。
有藤氏は言った。「へっぽこぴーさんのメーカーのJクラス入れてるけど、競合のジャイアント社さんかなり安く来てるよ。このままでは負けるよ。」
客に合ってなかった提案方法
ボクの所属していたメーカーは、懇意にしていたコンサルの影響を受けてか、価格(見積)をギリギリまで出し渋る傾向があった。
時には100枚にも及ぶ提案書を作りプレゼンすることが美徳とされた。提案を語るが価格は最後まで出さない。
この方針は、やや市場優位な側ならではの大上段な戦略だったと思う。
店舗数が多く、自社の水筒の売上が家庭用品部門全体の売上に占めるウェートが大きく、大きなインパクトを与える企業なら合っていたかもしれない。
しかし、中規模で水筒の売上規模も少なく、そこまで自社の水筒が大きなウェートを占めていない某ホームセンターには合っていないアプローチだった。
だが、ボクは支店長や同僚から信頼を得られていない状況に会社の既定方針を押し通す策に出てしまう。
客側の事情や意図を説明して、双方の妥協案を出すことが出来なかったのだ。
発言力としても無かった上に、折衝する勇気や自信がなかった。
位置付けの違い
当時の状況を以下のようなマトリクスにしてみた。
ボクの立場、支店長の立場、バイヤー立場でこれだけ「水筒を売る(仕入れる)」ことに対して位置づけの違いがある。
ボクの立場としては、支店で評価されていなかったから予算構成が低くされた結果、支店全体としては少額な某社の売上・評価がボク自身にとってはそこそこの構成比になっていた。
某ホームセンターに何としても売らない状態に追い込まれているのは、実はボクだけであることがわかる。
顧客としては、売上のほかに粗利が評価指標。小売り同士の価格競争環境もあり、バイヤーとしては仕入れ原価を下げて、セールなどで売価を下げても粗利が確保できるような仕入れ環境をつくるのが最高の結果である。
それが別の会社の商品で出来れば、別にボクの所属していた会社の水筒の購買にこだわらなくても良いわけで、条件に合わなければ採用する必要はないのだ。
難しかった状況
ボクはこの状況がわかっていたが、上手く調整や交渉をすることができなかった。
会社としての既定方針を押し通してしまい、見積もりについてもギリギリまで出さないことになった。
バイヤーの争点は価格と粗利。であれば、自社のクラスJシリーズの販売でどれだけバイヤーの評価を上げることに繋げられるのか。要望に応えられないのであれば、どんな埋め合わせの提案があるのかをシュミレーションしたり、会社と相談のうえ持っていくなどしなければならなかった。
しかし、ボクはやみくもに支店長の意向をうかがいバイヤーに伝達する、バイヤーの意向を聞き、支店長にそのまま伝える、伝書鳩的な提案しかできていなかった。
支店長に反発することも怖かったし、バイヤーの反発も怖い。
どちらに対しても摩擦を避けたかった。
そうなったときに、ボクは会社からの評価が更に落ちることを恐れて、会社の主張と自分の評価指標のことしか提案する際に頭になかった。
バイヤーの要望の裏側に何があるのかを丁寧に追求していくことが全くできていなかった。競合の情報なども全くヒアリングできなかった。
双方の批判を恐れて、レスポンスが遅くなったのも非常にマイナス要因として働いたと思う。
更に、クラスJシリーズがまさか不採用にはならないだろうという慢心もあったと思う。
敗北は必然だった。こうしてなんの戦略もないまま、選定会の日を迎える。
外されたクラスJシリーズ
メーカーと問屋が参加する選定会当日。選定は実際のお店の棚を再現して、実際の製品を置いて行われる。
バイヤーは再現した棚を前に構想をまず示していく。
今採用されているクラスJシリーズが外され、競合のメーカーの同クラスの製品にすべて差しかえる構想が示された。
その会社での販売点数は良いのにだ。
ボクはパニックになり、「え!?市場で一番売れてるのになんで外すんですか?」と気色ばんだ。
バイヤーは言った。
「御社の見積もり提示額が高いから。」
大慌てで事情を支店長に説明し、その場でドタバタと値引き対応に走ったがときは遅すぎた。
ボクの会社は、その企業に対して問屋を経由して商品を納めていた。
問屋にマージンを渡さないといけない。
値引きの想定も甘く、問屋側とのマージン額、幅の合意もできていなかった。
「買ってくださいよ!」とにかくへりくだりお願いする、拝み倒し営業に。
しかし、そこまでの段取りの悪さ、バイヤーから見るとボクはメーカーエゴの提案しかしておらずもともと心象は悪い。
結局、クラスJシリーズは常設・定番の棚の採用からはほぼ全て外れ、非常設の季節棚にしか残されないことになった。
社内で「ありえない」とされていた売れ筋のクラスJシリーズの不採用。
肩を落として、トボトボと帰路につく
翌日出社した際に、支店長の東野は「よく出社できたね」と冗談めかしつつも、吐き捨てるようなニュアンスを含み言葉を発した。
本来黙っていても客先が採用するような、超売れ筋さえマトモに売れない。
客先の相性、会社トータルとしての対応。諸々の組み合わせが悪かったのもあるだろう。しかし、ボクの仕事の段取りが上手くできていなかった。課題と向き合わず、希望的観測で仕事をしてしまった。
敗因はこれに尽きるだろう。
ボクの営業マンとしても、仕事全般としても、この出来事は更に大きく自信を無くす出来事になった。
折れた船 朝はどこだい
僕は折れた船
朝が見つからずに彷徨い続ける毎日だった。
朝はどこなんだろう。
雨が降り続ける。何もかもが鬱陶しかった。
(→次回に続きます)
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