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あの子が教えてくれた映画【幼年期のスクリーン・10】

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あの子が教えてくれた映画

1980年(昭和五十五年)1月、もうすぐ五年生になろうとする頃、購読していた「少年マガジン」である特集記事を見た。

当時の「少年マガジン」は巻頭に記事が載っていることがあって、映画の特集も多かった。

そこで、その年の3月に公開のテレビアニメ再編集の劇場版「あしたのジョー」の特集記事を見て、初めて大まかなストーリーを知る。

ストーリーを軽く知っただけなのに相当感動したのか、その直後にコミックの一巻を街中の本屋で探して回って、結局見つからなかったことが当時の日記に書いてある。

1980年1月28日の日記

その後、書店の店主に問い合わせてようやく二巻を手に入れて大喜びしたり、映画公開に合わせたテレビの再放送を熱心に一話から見ていたり、公開日を指折り数えて待っていたり。

1980年3月13日の日記

「銀河鉄道999」はテレビアニメも連載も続いてはいたのだが、劇場版で自分の中では一区切りついたのか一時期ほどの熱は冷めていて、その代わりに急速に「あしたのジョー」にハマっている。

当時再放送されていたテレビアニメの中で、「ルパン三世(PART1)」「デビルマン」「バビル2世」などアクション性の強いものはよく観ていたが、人間ドラマ中心だった「あしたのジョー」はスルーしていて、それまで全く観ることがなかった。

しかし、たった一本の記事で大ハマリ。他のアニメ映画も少年誌に特集されたことはあるが、ここまで夢中にはなっていない。

思い当たる所はある。テレビアニメ放送時に「999」の話題で盛り上がっていた子を完全に好きになっていたのだが、その子が父親に「あしたのジョー」を薦められて読んだら感動した、という話を聞いた。

そして、クラスのクリスマス会で各自プレゼントを用意してきて交換会をすることになり、私はその辺で買った文房具セットを持っていったのだが、その子は自分が読んでいた「あしたのジョー」の単行本を何冊か丁寧に包装して持ってきた。

プレゼントの交換は丸く椅子を並べて全員が座り、横の席にプレゼントを渡していって止まった時のプレゼントが貰えるということで、「あしたのジョー」が周ってくるといいな、と呑気に思っていたら、その子が直前になって「やっぱり自分でまだ読みたいから」と急遽プレゼントを「あしたのジョー」から何かしらに変えた。

その時は気付かなかったのだが、私に渡すつもりで持ってきたのに、そんな方式になってしまい、他の誰かに渡るのを嫌がって持ち帰ったのかも知れない。

ただ、当時の私は「人に渡るとなると、急に寂しくなったんだろうな」と単純に思った。

そんなこともあって、その子に合わせようと必死になっていたのだろう。

そして、春休みに「あしたのジョー」を観に、千葉市内では初の東映系以外の映画館に行くことになる。

千葉市で一番多かったのが京成系の映画館で、その当時四つあり、土曜日の新聞の千葉版の下の方の段には、京成系の映画館の上映時間の載った広告が横に並んでいた。

今もだが、京成千葉駅から千葉中央駅まで高架下が商店街になっていて、そこをずっと歩いて千葉中央駅のすぐ手前にあったのが「京成ウエスト」。

千葉中央駅から階段を昇った先にあるのが「京成ローザ」で、ここは当時の京成系の映画館で一番席数が多かった。

現在も同じ場所に、「京成ローザ10」と名前は残し、シネコンとして営業している。

そこから少し先の階段で地下に降りた所にあったのが「京成サンセット」と「千葉京成」である。

京成系の映画館は中学入学以降、かなり頻繁に通うことになるのだが、この時はまだ京成ウエストには行っておらず、京成ローザは下からのぞいたぐらいで、「あしたのジョー」を上映していた千葉京成に行った。

千葉京成は四つの京成系の中では一番小さく、開始時間ぴったりに行ったものの満席でまず入ることが出来ない。

3月のまだ寒い外で一回目の上映の間待たされることになるのだが、父親もさすがにイラ立ったのか、その横の京成サンセットでやっていた「火の鳥2772」「象物語」の二本立てに変えようと言ってくるのだが、頑なに拒否した。

そして、やっとのことで中に入り席に座るのだが、「あしたのジョー」は上映時間が二時間半もある。

結局、合計五時間以上映画館とその周辺で過ごしグッタリとして帰るのだが、その苦労話も映画の感動も「あしたのジョー」を教えてくれた子に伝えることはなかった。

その子が春休み前に、同じ市の別の小学校に転校してしまったからである

事前に引っ越しすることも伝えられず、修了式の後にクラス全員の前で泣きながら挨拶した後、会話も何もないまま、突如いなくなってしまった。

新学年になってもぽっかり穴が開いた状態で、クラス替えがあった関係もあるが、誰とも「あしたのジョー」の話はしないまま。

そして、あれだけ「あしたのジョー」公開前に大騒ぎしていた日記は、鑑賞後の感想などは全く書かれておらず、修了式前からパッタリと止まっていた。

1980年3月14日の日記

あのクリスマス会の「あしたのジョー」は、果たして私に渡すつもりだったのか、今となってはもうわからない。


AI音声による読み上げ

都合により後日追加します。


今回の登場作品

  • あしたのジョー 劇場版(1980)

  • 象物語(1980)

    • Wikipedia 記載なし


次回予告

ご鑑賞の記念に
近日公開


記事一覧

この記事は、2024年に個人出版した【幼年期のスクリーン Kindle版】を再構成したものです。

尾塩隆志
©2025 Takashi Oshio


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