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『これって本当に「繊細さん」?と思ったら読む本』の読書感想文④


 今日は。本日は夕方から失礼いたします。この度は数ある記事のなかお時間を割き、開いてくださり誠に有難うございます。今回も引き続き武田友紀,名越康文著『これって本当に「繊細」さん?と思ったら読む本』(日東書院本社)の読書感想文第4弾です。

 これまでの記事を添付いたします。拙文極まりないですが、もしご興味がありましたら、書籍は凄くよいので!どうぞご高覧くださいませ。スキをつけてくださった方も有難うございます。大変励みになります。


 さて、読書感想文①,②では第一章を(HSPの概念、取り巻く社会構造)、③では第二章の入り口を(HSPとトラウマ、トラウマとは何か、HSPの遺伝/環境)お話していきました。それぞれのトピックをアウトラインで区切っているので、全部読まずとも気になるところだけ、かいつまんでみてくださいね。ちなみに、本書は238頁ありますが対談形式で展開していくので、非常に読み易いです。私が結構膨らませているので、もしかしたら実際より長く感じるかもしれません。

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 この本では、心理学を少しかじった私も全く知らない新たな知見ばかりで、読み進めていて自己/他者理解にとても役立ちます。
 例えばp.76にあるように、トラウマの症状はフラッシュバックだけではなく、些末な物音に驚いたり、敏感に出来事を解釈してしまう、人と居て常に緊張してしまうなどの過覚醒があります(これ私だ…!)。したがって、その過覚醒とHSP気質に拠る敏感さが類似してしまうため、HSP(先天性)とトラウマ(後天性)はしばしば混同されやすいというわけです。
 ちなみに過覚醒のほかにも、低覚醒(解離性症状)という状態があり、これは身体が動かなくなる、頭が真っ白になる、気絶するなどの様相を呈することがあります(これもひとつのヒステリーかもしれません)。

 この場面からレクチャーしていた武田先生が反転して、あるいは名越先生の傾聴によって、武田先生がぽろぽろと過去の実体験を語り出されます。まるでいきなりTh‐Clの枠組みになったような場面展開。単なる専門書ではなくまるで当事者研究的な側面もある、バリエーションに富んだ、あるいはサービス精神のある書籍もとい著者の方々のようにお見受けします。
 恐らくそこには守秘義務があるため自分自身の事例を出す経緯と、症状を身近なものとして知ってもらうことの効用が指し示されているような気がしました。自己開示の捉え方自体も段々と変わってきていますよね。
 また、名越先生は解離が古来からのひとつの生存戦略だとするならば、正常/異常の定義がしがたいのではないか、と述べています。例えば動物ならば危機に陥った際に「固まる」例や「死んだ振り」など。

トラウマ症状解消の鍵

 動物は危機が去ったあと、「固まる」動作から再び身体を起こし一時的な解離をほどけるのに対し、人間は危機的状況=トラウマ化し、固まったまま=解離化、その後を暮らしていくことになります。その結果、当時と似た危機的状況だと心身が判断するたびに解離化していく(複雑化する)というわけなんですね。
 それらを踏まえ、未完了になっている動作を完了させる(解離をほどく)作業がトラウマ症状解消につながるという理論をソマティック・エクスペリエンシング®(SE™)という流派、センサリーモーター・サイコセラピー、TREなどの流派がベースにしています(p.87)。SE™では、話の内容ではなく、例えばトラウマを回想した際に出る身体症状に着目します。強張っていた身体の動きを自然に戻してあげる、未完了の動作を完了させてあげるイメージで自分の身体とダイアローグすると、すっきりと心身が解放されてくるようです。
 そして、一説によるとトラウマを抱えている人には聴覚過敏が多いとのこと(p.89)。武田先生はご著書のなかで「耳栓をする」という方法を紹介したところ、「よく眠れました」との感想が相次いだ経緯があったとのことです。また、想像力の強い方であれば、緊張状態の際にリラックスする場所をイメージしてもらう。そうすることで心地良いと心身がほぐれ、ノイズキャンセルし音を正常に聴き取れるようになったそうです。

 ちなみに私は片耳が中難聴なのですが(中耳炎によるもの)、以前までは確かに聴覚過敏の傾向がありました。その系譜でいくと、人間の認知特性には視覚優位(Visual)、聴覚優位(Auditory)、体感覚優位(Kinestic)、言語感覚優位(Auditory Digital)があります。これらのどれが自分に当てはまるかどうかで得手不得手も変わります。自己理解を深める意味でも、またお子様の学習スタイルの方向性などを決める意味でも、特性を調べてみるのもまたひとつかもしれません。

 参考に論文を引っ張ってきました。よろしければご一読ください。

感覚・知覚の優位性と認知スタイル・ストレスコーピングの関連性について」東洋英和女学院大学大学院,松田千広,2015.
file:///C:/Users/ishiy/Downloads/06_%E6%9D%BE%E7%94%B0%E5%8D%83%E5%BA%83.pdf

「繊細さん」に見えない繊細さん

 うう…、また名越先生の考察が泣けますね…。というのも、この節では武田先生が一般的なHSPを実が柔らかく皮が薄い桃、非HSPを実が硬めで皮が厚いバナナと非常に分かり易く形容されています。
 そこでもうひとつ、普段は鈍化し非HSPに紛れているが実は凄く繊細な機微を内奥に隠している、つまり夏みかんのように皮は分厚いが実は柔らかいタイプが結構苦労していると名越先生。この勘所というのは、実は桃なのに夏みかんしか演じることができない点にあり、そう考えると社会性を担保するため仕方なく皮を分厚くせざるを得ない(解離とも換言できるかもしれません)HSPの方々というのは実は潜在的に少なくないのではないかと思われます。

(文中 p.97より画像引用)

 
 そのコンテクストからいくと、よく芸能人の方などがHSPだと公表すると一部から疑問視される声もありますが、HSPが「先天的な気質」であるならば、だからこそ人のこころの機微を察知し、芸能活動などの極めて繊細なお仕事に活かすわけで。語弊を恐れず分かったように言うと何となく、繊細さを大雑把に魅せるお仕事だと思うんですね。悟らせない。そうした機微を察知しやすい「先天的な気質」を上手く飼い慣らしているという意味合いでも、きっとほんとうにHSPと共存されていると思うんですよね。それこそ夏みかん型にはこのケースが多いのではないかと感じました。だから辛い。

 そして名越先生は世の中の第一線に居る人でも、トラウマを内在しているケースは多いと述べています。一般的に富裕層で社会的地位も高ければ、そしてレールが敷かれていれば世俗的にみてそれは幸福そのものじゃないかと思うのがステレオタイプなわけですが、光が多いほど影が強いように、そうした一流の方々は社会的規範の模範として扱われるために弱い部分を見せることができないように端から視ても感じるんですね。だからこそそうした社会的プレッシャーから、家庭や部下と軋轢が起きてしまったり、抑圧の反動が出たり、ルサンチマンをぶつけられたりする。これは、一般的に貧困家庭で育ち弱者として扱われる立場からは想像もつかない別種の苦悩だと考えます。どちらが辛いではなく、それぞれの辛さがある。

 武田先生は、トラウマの解明や療法は今後更に注目されていくと仰っています。人々の悩みの背景にはどうやらトラウマが関係していることが段々と分かり、研修や翻訳書も充実してきたと言います。今後ますます研究が進み、人々が当事者として生き易くなるとともに、第三者として問題に直面した際に理解が育まれるような、そうした土壌が培われることを願っています。

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 それでは、キリがよいので本日はこの辺りで失礼いたします。皆様にそれぞれ貴重なお時間があるなか、ここまでお読みくださり誠に有難うございました。もしよろしければ、またお目通しくださると幸甚に存じます。

また暑くなってまいりました。熱中症にも引き続き気をつけましょうね。

you 拝


 

 

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