【連続小説19】愛せども
翌朝、満喫で目が覚めてしばらくすると、黒服の男二人が部屋に入って来て、昨日あったことはなにもなかったかのごとく、あたりまえのように外へ出た。
「では、帰るぞ」
普通に満喫に一泊しただけだ。なにもアクシデントは起こっていない。安心して彼らの後ろを着いて行くと、
――バサッ
急に視界が真っ暗になり、息苦しくなった。なんだこれは。おいおいと大声で叫ぼうとするが、息を吸い込むほど空気がなくなり、声を発せられない。叫ぶのを諦めた頃、どうやらこれは袋かなにかを頭から被されたのだと気付く。男たちは僕が抵抗しなくなるのを待っていたのか、静かになると、両脇に優しく手を添え、誘導する。エスコートのような丁寧さが、余計に怖い。荒っぽいんだか優しいんだか、謎が深まる。
そのままおそらくクルマに乗せられ、移動しているようだ。その間、なにも会話はない。視界がまったく見えない状態でいることは、とても恐怖だった。体感だと1時間くらいに感じたが、おそらく15分ほどしか経っていないのだろう。クルマが止まり、降ろされ、また脇に手を添えられて歩いていく。後ろでガチャッと扉が閉まった音がし、急に視界が明るくなった。まぶしくて見えない。目の前にいる人を認識できるまでに、1分は掛かっただろう。
僕の目の前には、リサが立っていた。
「引越し、終わったから」
僕を監禁している間に、引越をしたということ…?むしろ準備とか全部やらせてしまって申し訳ないなんて思っていると、
「これから、よろしく」
リサの背後から現れたのはシュンだった。
現実のものになってしまった。三人で住むという話、なんとなくうなずいてしまったが、こんなに早くも始まるとは。
しかしこの現状を受け入れるしかない。
いろいろと思考を巡らせているうちに、気づいたら二人の男はいなくなっていた。
これをなかなか受け入れることができず、僕はリビングっぽいスペースに置いてあるソファーに腰掛ける。すでにレイアウトは完成されており、ものすごい作業スピードに感服した。
リビングには二つの扉が面しており、それは何やら曇ったガラスのような素材だ。もちろん向こうの部屋の中の様子は分からない。
「三人で住むんだよね?部屋、二つしかない気がするんだけど」
僕は疑問に思って訊くと、リサは答える。
「そうだよ。あれは私とシュンの部屋。一つずつ」
「え?僕の部屋は?」
「キミの部屋はココだよ」
リサはフローリングを指さす。
最悪だ。部屋ではなく、共用スペースだ。
そういうと、リサとシュンはなにか決めごとがあるかのように、それぞれの部屋に入っていった。