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【連続小説20】愛せども

リサとシュンが部屋に入ってから、小一時間ほど経つだろうか。
奥からたまに物音がするが、それ以外に特に変わった様子はなく、約一日ぶりに、何事もなく平和に時間が過ぎた。

携帯を眺めるのにも飽きたので、なんとなくテレビをつけると、若手女優が笑顔を振りまきながら食物繊維をたっぷり取れる野菜ジュースのCMに出ている。リサの束縛により、しばらく女性を視界に入れることを禁止されていた僕は、とっさに目をそらすが、今となりにリサはいないことを想い出した。今まではワンルームの二人暮らしだから、常に監視されていたが、このつくりなら、今までよりも自由になれている。そんなことに気付き、女優をうっとりと眺めていると、

「ねえ、なにやってんの」
僕は驚いてソファーから飛び跳ねた。真隣でリサの声が聞こえたような気がして、周りを見渡すが、そこにリサはいない。部屋の中にいるままのようだ。
テレビに目を向けると、バラエティ番組で芸人が大声でやり合っている。思わずクスっと笑ってしまった。こんな状況でも、笑う余裕があることに自分で驚いた。
芸人の奥に座っているドレスアップしているタレントが写り、僕は女性慣れしていない中学生のように、思わず息を呑む。
「ねえ!」
心臓が止まるかと思った。どういうことだ。少し考えたが、状況がまったく理解できず、僕はリサの部屋の扉の前へ向かい、訊く。
「これ、どういうこと?」
しばらく間が空き、沈黙が流れる。
「どういうことでしょう」
帰って来たリサの声はソファーのほうからした、やはり、この扉の奥から聞こえているのではない。
ソファーに駆け寄り、周囲を見渡すと、テレビの横にスピーカーが配置されていることに気付いた。
「ねえ、これ使ってるの?」
「BINGO」
なぜか洋画風の返答だ。おそらく、Bluetoothでリサがマイクか何かに話し、このスピーカーとつなげているようだ。

それは分かったとして、なぜ僕が見ているテレビの内容も分かったのだろう。リサは僕の視界に女性が入るのは嫌がっていて、さっき、入る度に話し掛けてきている。

ガラスのような素材で、曇ったグレーのような色の扉。僕はそこを眺めながら、なかば投げやりになり、ソファーに横たわる。
「寝たね」
え?僕の動きのことだろうか、狂気の予兆のようなものを感じながら、ゆっくりと腰を上げて、立ち上がってみる。
「立ったね」
背伸びをする。
「伸びー」

終わった。リサとシュンの曇りガラスのような素材の扉は、マジックミラーになっている。僕は共用スペースのリビングで、プライバシ―のない生活をすることになった。


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