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【連続小説17】愛せども

その日も、話し合いは行われた。リサとシュンと3人で暮らすことに、僕はどうしても納得がいかず、かれこれ1週間、毎晩同じ話をしている。正確にはこれは話し合いではないと思う。おそらく、僕がリサの要求を飲むまで終わることがないからだ。

氷を入れたグラスに水滴が現れ、ゆっくりと氷の側面を滑り落ちていく。もうじきに、氷はすべて溶けてなくなってしまいそうだ。

リサはソファーに深く腰掛け、あぐらをかき、低い声で言う。
「いい加減にわがまま言うのやめたら?3人で住むことの何がおかしいんだよ」
この話し合いが始まった当初僕は、リサがやろうとしていることは滅茶苦茶だと言い、それはこの感覚を理解してもらえれば、必ず分かってもらえるものだと信じて疑わなかった。しかし、話が進まないまま何日か経つうちに、僕がわがままを言って要求を突っぱねているという形に、いつのまにかリサは構図をすり替えたのだ。しかも話は毎晩深夜までおよび、僕は毎日寝不足のまま仕事に行っていた。

テーブル越しに僕はあぐらをかき、眠い目を擦する。今日で何日目だか分からない。そしてこれはおそらく、僕が頷くまで続くのだろう。時計を見ると、まもなく朝の4時になるところだった。

「いい加減に、しろって言ってんだよ!」
リサは怒鳴る。この時間にそんな声を上げたら、また隣人が大家にクレームを入れてしまうかもしれない。なけなしの金を払ってここに引っ越してきたのに、ここを追い出されたら、たまったもんじゃない。そういう意味でも、もうこの話は続けずに、飲むしかなかった。寝不足で意識はもうろうとし、まともに考えられていなかった。

「わかった。もういいよ」
僕は敗北宣言と同じ意味の言葉を発した。
「そう、やっとわかってくれて、良かった」
リサはそう言うと、スマートフォンに手を伸ばす、ピピッと音がなった。ああ、今の言葉、録音されちゃったんだ。

リサはソファーから立ち上がり、僕の隣に着て、猫撫で声で「ほんとによかった…」と言う。決して僕に「ありがとう」とは言わない。そもそも全く思ってないんだろう。

僕はベランダに出て空を見上げる。三日月の前に掛かっている雲が、ゆっくり動き、離れていく。明け方だがまだ日は出ていない。東京の夜は明るい。街灯が消えることはない。

「ちょっと散歩してくるわ」そう言おうと思ってやめた。一度、同じセリフを言って、止められるかと思ったら意外と止められずに、でも帰ってきたら僕を無視するリサが待っていた。都合が悪いと、無視をしてこちらに心配させ、ストレスを溜める。誰が悪いのか。勝手に心配してストレスを溜めている僕だろうか。

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