【連続小説9】愛せども
リサは一通り怒鳴りちらすと、先ほどまでの様子が嘘だったみたいに、泣き出した。
「ずっと一緒にいるんだから、スマホくらい買ってよ。壊したのそっちじゃん」
確かにカッとなって物にあたってしまった僕が悪い。しかもリサのスマホを壊してしまった。弁償するのは当たり前かもしれない。とはいえ、貯金なんてほとんどない僕にとって、スマホを購入するということは、僕のクレジットカードを使ってリサの買い物のローンを組むことになる。
僕のスマホで、値段を調べてみた。
「ちょっとずつ渡すんでよければ、半分は私が出すから、これが良い」
リサが指さしたのは、20数万円する最新機種だ。僕は10万円も払いたくなかったが、壊したしまったわけだし、文句も言いずらい。吞むしかなかった。
翌日、僕たちはスマホショップに行き、リサのスマホを購入した。2年ローン。2年という月日が、僕とリサをリアルに束縛してくる。昨日みたいに激しい喧嘩をしたり、しんどいときもあるけれど、それを乗り越えた後は、ふわっと心が浮くような気持ちになる。風邪薬を大量に飲んだ後みたいな、そんな感じ。こうやって二人で苦労に耐えて、絆を深めていくのは、良いことに違いない。僕たちは、これからも共に生きていく。2年なんて、その一部に過ぎない。
最近デートに行ったりしていなかったので、帰り道に普段はなかなか入らない個人店のカフェに寄った。僕がスマホを買ったことに対して、リサから感謝の言葉をなかった。ただ、新しいスマホを手に入れたことは嬉しかったようで、上機嫌に自分語りを始めた。
「うちはね、私が3歳のときに両親が離婚してるんだけど、お父さんの記憶がうっすら残っているの。肩車してくれたのを覚えてる。とっても高くて、怖かった。お父さんの顔は覚えていないんだけど、その景色は記憶にくっきるあるの」
リサは続ける。
「前、スカイツリーに行ったじゃない?すごい高かったけど、全然怖くなかった。あんな鉄骨とガラスに囲まれた安全な場所から眺めても、なんにも感じなかった。スカイツリーとは比べ物にならないくらい低くても、お父さんの肩車のほうが、私は好きだったな」
メロンソーダに浮いたさくらんぼが、ふやけて不格好になっている。金髪の店員がテーブルに持ってきたときには、アイスクリームの上に堂々と乗り、とてもみずみずしくて、「主役は私です」と言わんばかりの張りがあったのに、今はもう無様だ。それは勘違いだったんだよ。せめて、すぐに食べてもらえたら、こんな醜態をさらさずに済んだのに。
「でもね、お父さんは、暴力を振るう人だったの」