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まっすぐな前歯は娘とわたしの勲章。


【514日目】


「お母さん、がんばって通わせてくれましたね。
将来のお年頃の娘さんが感謝しますよ。ほら、だいぶまっすぐになったから」

娘は誇らしげににかっと笑った。
1年前ばらばらに生えていた歯は、全部がまっすぐとは言い難かったが、前歯はとくに見違えるようにきれいになった。


小学生になってすぐの歯科検診、
次女は要再検査の紙をもらってきた。

毎年健康診断後にもらうこの紙、要検査なら、
受診して医師のサインが必要だ。

噛み合わせが悪いらしい。
下の歯のほうが上の歯より出ているのだという。わたしは出っ歯だから、噛み合わせが悪いのは遺伝かもしれない。

歯医者というといやがる娘を、「終わったらドーナツあるから!」といささか歯医者には似つかわしくないご褒美をささやいてつれて行った。


歯医者にいくと、がっつり体格のいい院長がでてきた。彼は丁寧にヒアリングした後、
理解が遅いわたしにも専門用語をなるべく使わず、手書きの図解まで使い説明してくれた。

この先生に、娘の歯は任せた。
そう思えたので、なかなかの金額だった矯正治療をはじめることにした。

清水の舞台だろうと、通天閣だろうと、
今ここで投資せんで、
何が関西のおかんや。


……という気概に一瞬なった。


まだ歯が永久歯との生え代わりの時期だからこそ、改善が見込めるらしい。
まさに今、なのだ。
時はコロナ禍真っ只中だったので、矯正中の歯がマスクで隠れて見えないのもある意味ではタイミングがよかった。
幼くても見た目は気にしてしまうものなのだ。特にまだ小学校低学年では、
お友達の何気ないひとことに傷ついてしまうだろう。

わたしの小学生のころは矯正と言えば銀色の器具一択で明らかにあの子は今治療中!とわかったものだが、令和の今は違う。

わたしは院長から説明を受けるたびに、
「へえ!そうなんですか」とか
「はあ!わたしの時代とは違いますね」とかリアクションが逐一いい女になった。



この日から一年みっちり歯医者に通った。
その間にわたしは3本虫歯ができて、一緒に
並んで治してもらった。



矯正は器具だけではない。
毎月のメンテナンスにもお金も時間もかかる。
徐々に成長する娘のあごにあわせて器具を変えたり、乳歯が抜ければ調整したりする時間が必要だ。

娘はとんでもなく変な器具を帰宅後に
つけるように言われた。
(何だかヘルメットみたいだったが歯を定着させるのに必要らしい)
わたしのスマホには彼女のそれをつけて笑った写真がたくさん残っている。笑ってたからそれなりに楽しんでくれていたのだろう。

祖母が娘が器具をつけるのを嫌がらないように褒めておだてて、
時には必殺技のお菓子を出して、
頑張ってくれた。




「お母さんもよく頑張りましたね。
〇〇ちゃんもえらかったよ。今日でいったん
おしまい。卒業だ」
まだまだ成長途中なので、永久歯に全部生え変わらないと、これ以上の矯正はできないのだ。
うちでやるなら、第2弾の矯正も安くしとくよと付け加えることも先生は忘れなかった。

そしてたくましい腕を娘の肩に置いて言った。

「歯は一生ものだからね」




今や反抗期の娘に嫌がられながらも
口を開けてもらうと、
小さい歯がかわいく並んでいる。
少しサイドが八重歯気味だけど、
まあいいか。
わたしはこの時期にできる娘の治療の
できるところまではやってもらった。
この先は娘自身が成長した後に、
自分と歯の付き合いかたを学べばいい。
きれいにしたければ、大人の矯正もあるのだ。


わたしは、娘がにこっと笑ったときにのぞく
白い歯が勲章のようで、愛しくてたまらないのだ。




本日もお付き合いいただきありがとうございました。
こちらの企画に参加しております。


定期健診予約しなきゃなあ、とこの記事を書きながらずっと思っていた次第です。

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