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僕と彼女と、クリスマスオーナメント。
彼女には、てっぺんの星がよく似合うから、
僕はそっと手渡した。
彼女が認識できるように、かたちを指がたどれるように、丁寧に手で包み込みなぞらせてやる。
銀色に鈍くかがやく、星のクリスマスオーナメントだ。
🔷🔷🔷⛄️
彼女は目が見えない。
生まれたときから視力が衰えていき、
今やほんの少しの光しか感知できないと
いう。
ユキ、という。
長い髪を後ろでゆるくくくり、白い肌が
きれいな女の子だった。
僕は彼女と、喫茶店で出会った。
喫茶店で、元恋人に絡まれていたところに通りがかった。
彼女は目が見えないながらに
元恋人からかけられる言葉や雰囲気に嫌がり
小さい声で
「やめて、やめて」と繰り返していたのだ。
僕は「そのあたりにしたらどうですか?」と
元恋人に声をかけた。
びくっとした元恋人は、
ふんと鼻をならし店を出て行った。
ほっとした表情の彼女が、なぜだろう、
初対面なのにたまらなく愛しく思えたのだ。
⛄️⛄️⛄️
ユキとのデートにはよくクイズをした。
クリスマスが近くなると、
ツリーのオーナメントの当てっこをした。
オーナメントのベル、トナカイ、天使、サンタさん。
ひとつずつ、ユキは触って覚えた。
これは、サンタなのね。ふふっ、ふわふわの
毛がついてるわ。
ひげだよ。
なんてオーナメントをさわり、家のクリスマスツリーに直しながら教える。
僕が手を添えて一緒に戻してやる。
これがトナカイね。つのがあるわ。
その笑顔は、僕には聖母マリア様のように
美しかった。
⛄️🔷⛄️
その頃から僕は、
自分の耳が突然聞こえにくくなるのを感じた。
ユキには心配させたくなくて、
黙っていた。
目が見えないから彼女は電話が重要な
コミュニケーション手段なのだけど、
僕は聞こえにくくなる耳を隠すように
彼女との電話の回数を減らしていった。
あの鈴を鳴らすような可愛らしい声が
ちいさく雑音が混じって聞こえるようになった。
胸をかきむしりたいほど
僕は戸惑っていて、苦しかった。
何でだ。
🔷🔷⛄️
ぼくも、耳がきこえなくなりそうだ。
病気になったんだ。
少しずつ、聞こえなくなっていく。
進行性らしい。
しばらくぶりに会ったユキに
ひとつひとつの言葉をゆっくり話した。
久しぶりね、どうしたの?と尋ねたユキは
言葉を失った。
⛄️⛄️⛄️
目が見えないユキと、
耳が聞こえなくなっていく僕。
音や、たくさんのメモや、手触りや、
手話や、ありとあらゆるコミュニケーションで僕たちは気持ちを伝えあう。
手を握ってお互いのぬくもりを
伝えるのがいちばんの表現かもしれない。
言葉はいらない。
彼女の冷えた左手を僕の両手で
包みこみ、手にゆっくりと
さむいね、おなかすいたと書く。
ユキはくすりと笑い、
ごはんたべようと手話で伝える。
寒い冬でも、僕たちは
お互いの手を少しずつあたためることで、
気持ちを伝えていくから
大丈夫だ。
手袋をしてしまうと、手のひらに書くという
手段ができなくなるから極力しない。
その代わりにお互いの手のひらが
大切なのだ。
彼女の手に。
愛の言葉を連ねていく。
そっと銀色の星を握らせて手触りをなぞらせる。
銀色、ざらざら、ほし。
ユキはその言葉を何回か繰り返しながら、
まだ微かに聴力が残る僕の耳に、
きれいね、ありがとう。
おいしいごはんを食べよう。
ツリーにほし、かざりにうちにかえろ。
とささやいた。
ゆっくりだから何とか聞き取れた。
もっと、彼女の声をききたい。
僕の耳の残された時間はわずかかもしれないから。
ユキに握らせたオーナメントの星の先に、
彼女が好きな星のモチーフのついた
指輪をはめたことに
気がついただろうか。
高校生以来?久しぶりに小説を書きました。
こっぱずかしくなりますが、
楽しかったです。愛っていいなあ、
お幸せにね。
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企画ありがとうございます✨