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#449 UNESCOの教育カリキュラム差別化戦略から学ぶ「多様化ファシリテーション」の極意
UNESCO(ユネスコ、国際連合教育科学文化機関)は、諸国の教育、科学、文化の交流を通じて、国際平和と人類の福祉の促進を目的とした国連の専門機関です。
そんなUNESCOが2004年に公表した"Changing teaching practices: using curriculum differentiation to respond to students' diversity"、すなわち「学生の多様性に対応するためのカリキュラム差別化」のテキストは、オンラインで全文アクセス可能となっています。
本資料の主なターゲットは、普段教育関連の業務に携わっている人たちだと思いますが、ここで触れられている「多様性への対応」については、ビジネスの場で多様な人と協働する私たちにとっても多くのヒントが詰まっています。
私は、IT業界の民間企業に勤務しながら「企業活動と教育現場を繋げたい」という考えのもと、色々と動いています。企業活動としては普通に行う「自分たちだけでできないことは『外の力を借りる』ことを学校でも当たり前にしたい」、というような「企業活動→教育現場」という向きの接続もあれば、「教育の専門家のノウハウを企業活動におけるコミュニケーションやファシリテーションに活かしたい」という「教育現場→企業活動」の接続もあります。
本資料で説かれているノウハウは、「教育現場→企業活動」の向きで参考になる部分が多いだけでなく、昨日述べた「高次思考スキル」の実装に必要となる「段階的で個別的な生徒へのアプローチ」、「スキル習熟度に応じた具体的なフィードバック」にも応用すべき話が多いです。
今日は、私の頭の整理も兼ねて、ご興味があるかもしれない方にも届けば良いなと考えて、UNESCOのレポートをまとめてみます。
多様な相手の学びを促進するアプローチとは?
学校の勉強にせよ、企業活動におけるファシリテーションにせよ、人の学習効果を高くするための大前提は、参加している人が「楽しい」と感じることです。
楽しくないことは続かないし、楽しいからこそ、自らの興味のままに色々と動いて、その道の専門性を高めていき、より高いパフォーマンスが発揮できるようになります。だから、学びも仕事も「楽しさ」というのはとても大切。
本記事のテーマは、「多様化ファシリテーション」ですが、人が「楽しい」と感じるポイントはまさに十人十色であるというところで、どのようにファシリテーター側が企画を設計するか、ということが肝となります。
で、この「楽しい」活動を設計する際に、学習プロセスを分解していくと「インプット・モード」と「アウトプット・モード」の活動に大きく二分されます。
インプットモードでは、何らかの情報をインプットする際、情報を集めるための手段として「観察、読書、聴取、実践」などが挙げられます。さらには、これを一人でやるかグループでやるか、というところでもバリエーションがあります。「読書」という手段一つとっても、各自で読んでくるスタイルと、同じ本をペアで読んで、それぞれに感じた点の共通点と相違点を抽出し、他の人に伝える、というような応用であったり、ファシリテーター側から対象の本に関連する情報をいくつか提示する、というやり方もあります。
アウトプット・モードでは、「書く、話す、描く、作る」などが挙げられます。何かの発表をするといっても、「あるテーマの要約を書く」、「自分たちでテーマに関する物語を作る」、「ポスターを作って貼る」、「自作の劇を作り、みんなの前で発表する」というように、様々な手段があります。
「受動」を「能動」に変えるには、選べることが大切
ここで以前にご紹介した「構成主義」の話を引用しますが、学習は能動的なプロセスでないと、学びにならないんですよね。
つまり、受動的に誰かの話を聞いているだけの状態で学ぶことは難しく、相手が「楽しさ」を感じられる手段により「能動的に参加する」モードに切り替わらないと学びの効果は下がります。
上述した「インプット・モード」と「アウトプット・モード」の話に戻れば、色々とある手段の中で、自分が「楽しい」あるいは「得意だ」と感じられる手段が採択できるというのが大事です。
学校で、生徒全員が同じ時間に1人の先生の話を聞いているだけのスタイルでは耐えられない生徒が出てくるのは、「インプット・モード」と「アウトプット・モード」の選択肢がそれぞれ1つだけだからです。
つまり、「黒板を見ながら先生の話を聞く」というインプットのみ、「黒板に書かれた内容をノートに書き写す」というアウトプットのみ、と学習の手段がかなり限定されています。
少なくとも探究学習や企業活動におけるファシリテーションでは、多様な参加者がそれぞれ「楽しい」と感じられるインプット・アウトプット手段の選択肢を設計しておくことが、能動的な学習を促す上で非常に重要な点となります。
視覚・聴覚・触覚の学習スタイル
個人によって、五感のどこを使う学習スタイルが好きか、という点の選択肢を理解しておくことも有効です。
例えば「視覚スタイル」では、テキストやイラストを見て学ぶのが好き、ノートでまとめを作るのが得意、読書をしてメモを取ることで学ぶのが好き、というものが挙げられます。
「聴覚スタイル」では、面白いスピーカーのプレゼンを聞いている時によく学べる、人と話す・討論することで学べる、目で何かを見るよりも、頻繁に人の話を聞いていることの方がよく学べるなどが挙げられます。
「触覚スタイル(自分でやる)」では、実際にモノを触ったり作ったりすることで学ぶのが好き、身体を使った活動が好き、グループ活動をガンガン進めることで学ぶ、などが挙げられます。
私の場合は、「自分で本を読み、現場に足を運び、人と議論することを通じてインプットし、自分なりに考えたことで情報を編集して、こうやって書いたり、人に話してアウトプットする」まで一貫してできた時に深い学びができている実感があります。
大事なのは、これらの選択肢の良し悪しではなく、出来るだけ多くの選択肢が企画に設計されていることで、多くの相手が興味を持ち、能動的に学習できる機会が増えるという点です。
多様な前提知識と経験の背景を知る
最後に1つ付け加えるならば、相手の前提知識や経験の背景を理解するための仕掛けを設計することも大切。これも「構成主義」の考え方で、人は新しい情報を受け取る時に、既に知っている関連する概念に基づき理解しようとするからです。
これは、ファシリテーター側が参加者の前提知識を知るという面もあるのですが、私は参加者側が自分の前提知識や経験を再認知することで、新しい学びのベースを理解する上でも効果があると考えています。
ここで紹介されている参加者の興味を引き出す具体例は、「水」というトピックを表示して、グループごとに「水」に関する20個の質問をリストアップする、というようなやり方です。
何らかの個人的な興味・関心に連動するキーワードが上がる可能性が高く、それを他グループにシェアするなどのワークを通じて、参加者がどのような前提知識を持っているか理解するきっかけにできます。
探究学習でも企業活動におけるファシリテーションでも、ファシリテーター側のボールの投げ方・上述した配慮を含めた細かな企画の設計が勝率を変えます。
このあたりは一つの専門性と呼べる領域なので、引き続き研究していきます!
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