【今でしょ!note#72】 「地域経済循環分析」から地域を学ぶ (1/3)
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
地域の経済構造を理解するための手段として「地域経済循環分析」という言葉があります。
EBPM(Evidence Based Policy Making)、つまり合理的証拠に基づく政策立案をすべしという考え方のもと、内閣官房が構築し、2015年から利用可能となったRESAS(リーサス、地域経済分析システム)を利用することで、日本全国の地域の経済統計が分かりやすく見れるようになりました。
RESASを使うと、他にも人口マップ、産業構造マップ、企業活動マップ、観光マップ、まちづくりマップのような、色々な統計情報を見ることができます。
自分の地元や現在住んでいる地域の状況を見ているだけでも面白いので、RESASを使って理解できることの解説についてはまた別の記事でも触れていきたいと思いますが、今日から3日間、「地域経済循環分析」を取り上げて整理していきます。
地域経済循環分析について、2020年に環境省が解説してくれており、こちらのレポートを参考にしながら、内容見ていきたいと思います。
https://www.env.go.jp/content/900495910.pdf
地域経済循環分析の考え方
RESASが公表している地域経済循環率マップには、誰もがアクセスすることができます。
地域経済循環構造は、「生産(付加価値額)」、「分配(所得)」、「支出(消費・投資)」の3つの構成要素から成り立っています。
これらの数字を追うことで、「生産された価値が分配され、支出(消費、投資等)により再び生産へと循環する」という地域における一連の資金の流れを把握することが可能になりました。
地域経済循環率とは、ある地域で生産された価値(付加価値額)を分配(所得)で割り算した数字で、地域経済の自立度を示しています。
100%を切ると、自地域で稼いだ所得より大きな分配所得を得ていることを意味するため、他地域から流入する所得に依存していることが分かります。
ベッドタウンで近隣地域からの所得の持ち帰っている地域や、人口規模が小さく財政移転による流入が多い地域では100%未満となる傾向があります。
地域経済循環分析を用いることで、以下のような疑問に答えることができ、産業政策、コンパクトシティ、公共交通、企業誘致、観光政策、公共投資などの様々な分野で適用されています。
地域経済循環構造の概観
地域経済循環構造の絵はレポートにもついているのですが、少しビジーな絵だったので、自分で簡略化してみました。
簡単に言うと、自分たちの地域で作ったものがどれだけあって、それをどのくらい自分たちの給料や企業の利益に回せていて、さらにそれを支出に回せているのか、という話ですね。
「地域」となっていますが、より大きく捉えると、国レベルでも同じ構造になっています。
当然、出発点である生産のところが弱いと、「①生産 < ②分配」となるため、従業員への給料の支払いや、必要な企業資本について、足りない分は外から補填してこないといけなくなります。
逆に「①生産 > ②分配」となっている地域は、地域内で必要な分配以上に生産できていることを意味するため、他の地域に所得を流出させています。
言い換えると、前者は「地域経済循環率が1未満の総所得が流入している地域」、後者は「地域経済循環率が1以上の総所得が流出している地域」といえます。
生産が強い後者は、全国で242市町村と全国の14%を占めており、基本的には都市圏や発電所などの装置産業が立地している地域となっています。
「③支出」のところで重要な視点は、どれくらいの支出を域内に対して行えているか、という点でしょう。
当然、地産地消で、地元で作ったものに対して、分配された所得を消費・投資できれば、それがそのまま地域内生産サイドから見ると売上となりますから、「①生産」に還流させることができることになります。
一方で、普段の買い物を都市圏にあるイオンなどで行えば、それは地域企業の稼ぎではなく、都市圏の稼ぎになっていきますから、「③支出」が地元の「①生産」に還流することなく、所得が流出していることになります。
また、「①生産」活動に必要となる材料が外にしかない状態であれば、どうしても輸入に頼らざるを得ませんから「③支出」フェーズでは、地域外に所得を流出させることになります。
一方で、他地域が必要なものを生産できていれば、外の地域に対して輸出することができますから、逆に地域外から所得を流入させ、「①生産」活動の投資に回すことができます。
そのため、生産活動に必要なすべてのものをできるだけ自分たちで調達できたほうが、地域外に所得を流出させることなく生産・販売ができますから、外に依存しない構造を取れている地域産業は強いですね。
1つの強い産業を作り、その周辺で必要なものも自前主義で作れるようになったことで複数の産業が強くなった事例はいくらでもあります。
例えば、薬が有名な富山では、薬を保存するための入れ物も外から調達ではなく自前で生産できるようにし、それを応用したガラス・サッシ産業に応用したというのもその1つです。
循環構造をデザインして稼ぐ産業を作る
上述した通り、地域の「稼ぐ力」の基本は、次のアプローチになります。
得意産業で地域外から受注し、生産性向上のための投資に回す
域内で販売先と調達先を持つことで、域内取引を活性化させる(=売上増)
不得意な分野に限り、他地域から輸入する(供給制約をカバーする)
どの地域も供給制約・人口減少に直面していますから、地域経済の活発化に必要なのは、ある程度まとまった地域の単位で上記1〜3を成立させる仕組みを構築することだと考えます。
つまり、地域経済循環構造を自分たちで成立させるためには、さすがに一社完結は現実的でありませんし、地域内にいくつもの産業を新たに立ち上げていくことも無理でしょう。
そのため、都道府県や市町村の括りではなく、生活経済圏の単位で見た地域圏の中で複数の企業が相互に企業間取引を行って循環構造を成立できるようなデザインしていくことが各地域の生き残り戦略になると考えます。
はじめは小さくても、経済循環構造をプラスに回転させることができれば、徐々に生産活動で得た所得を地域内投資に回せるポーションが増えてきて、周辺産業への幅出しを行なっていくことができます。
このような全体のデザインなしに、無闇に企業誘致したりしてしまうと、自分たちで所得循環を成立させることができず、外部への依存から脱却できない構造となってしまうのでしょう。
次回は、地域経済循環構造をうまく回しているケースとそうでないケースを見ていきます。
それでは、今日もよい1日をお過ごしください。
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