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#341 ダイバーシティに適合できる職場であることは、もはや重大なリスク対策になっている

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

先日、沢渡あまねさんの「マネージャーの問題地図」を題材にして、マネージャーに降りかかるあれこれの問題に対して、マネジメントはどこから手をつけていくのが良いのか?という問いに対して、「マネジメントにおける様々な問題の根源は、メンバーの"モヤモヤ"で、それは職場の血流とも言える「情報の流れ方」の速さと、それが末端まで滞りなく浸透しているか」である、という話をしました。

だから、マネジメントに関して色々現場で問題が起きていたら、まずはとにかく「モヤモヤ」の原因となる「情報」の流れ方と伝わり方に着目して、コミュニケーション摩擦をできるだけ最小化できるようにしましょう、という趣旨の話です。

今日は、沢渡あまねさんと奥山睦さんの同シリーズの本を題材にして、「旧態依然とした職場」における最大のリスクは何か?ということについて考えてみました。

本の名前は「働き方の問題地図」。

本論点については、以前パーソル研究所のリサーチ結果をもとに、「日本でははたらく幸せ実感が低い」という事実に対して、大きく影響を与えているのが「組織文化」である、という話をデータをもとに解説しました。

今日は、沢渡あまねさんの主張と私の考えをもとに、「旧態依然とした職場」に日々歩み寄る危機について、取り上げていきます。

「旧態依然とした職場」に歩み寄る危機

「働き方改革」が叫ばれ、ここ10年ちょっとでも私たちが働く環境というのは、かなりガラッと変わってきました。
私自身も経験がない時代ですが、一昔前は職場の自席でタバコを吸える時代があったのを現代の私たちが本当にそんなことあったの?と驚くくらい、ちょっと前では見られた「会社に何泊もしている人がいる」とかそういう状況は改善されつつあるとは思います。

一方で、色んな方の意見を聞いていると、メディアで取り上げられているほど、まだまだ「旧態依然の職場」は無くなっておらず、経営者や経営幹部も「変えないといけないのは分かっているが、何をしたら良いのか分からない」という方も少なくないようです。

ただ、外部環境として「グローバル化・少子高齢化・核家族化・女性活躍・雇用延長の流れ」がますます加速化していくことは止められないですから、「旧態依然の職場」であることには、「事業を動かす人がいなくなる」という最も大きな危機が訪れつつあります。

少し前まで「ダイバーシティ経営」は、「発想力や生産性の向上」の観点で語られてきました。多様な考えをミックスしないと、モノ余りの時代において画期的なサービスを生み出して競争力をつけられないとか、それぞれのユニークな専門性を発揮してもらうことで、全体の生産性を向上するとか、そういう観点です。

しかし、人的供給制約の現代において、ダイバーシティ経営はむしろ「労働力確保」の意味合いが強くなりつつあります。15〜64歳の人口は、2020年で7,509万人となっていますが、今から40年後2065年には4,529万人と3,000万人減という推計値となっています。2024年5月の東京都の総人口は約1,400万人ですから、ここから40年かけて東京都2つ分の現役世代がいなくなるという事態です。

現在、3歳の私の子どもが40代前半になる頃には、そんな時代がほぼ現実的に起こるという話です。

(出典)内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」

政府の「1億総活躍社会」というスローガンは、これまでは仕事と育児、介護などを両立できずにキャリアを諦めざるを得なかった人も仕事を続けられる社会を目指すというものだと理解していますが、足元の問題として、そもそも様々な組織現場で「ダイバーシティに耐えうる職場になっているのか?」を考えると甚だ疑問です。

働き方をセーブしないといけない時期は誰にでもやってくる

これまではキャリアを諦めざるを得なかった人が仕事を継続できる状態を目指すということは、「仕事の量をセーブせざるを得ない人」と混成チームで成果を出していくことが当たり前に求められるということです。

「育児と仕事の両立」という一点を取っても、「子どもが保育園で熱を出して、急な呼び出しがある」というリスクを抱えていない人はほぼいないわけです。3分の2以上が共働き世帯ですから、父親か母親のいずれかが対応せざるを得ません。

こういう事情に適合した職場環境になっていないということは「子どもが常に健康で、親が健在で近くにいて、かつ子どもの面倒を見てくれる人しか活躍できない国」ということを意味しています。

以前取り上げた「時短勤務」というテーマも、本来は「時短勤務に賛成かどうか」という個別の議論ではなく、「労働力不足(もっと言うと経済成長)、人のはたらく幸せ実感向上のために、どのような仕事環境を目指すのか?」という全体感のある議論が必要です。

グローバル対応、時短勤務、テレワーク、ダイバーシティ・・・を点でなく、面で考える

グローバル対応も、時短勤務もテレワークも、個別議論で是非を考えるのではなく、「誰のため?何のため?と言う全体の目的」から議論されるべきです。

人口が減っても生産力を維持または向上するには、当然労働生産性向上が必要なわけですが、「労働生産性の国際比較 2023」によれば、日本の労働生産性はOECD加盟国38カ国中30位と平均を下回っています。

(出典)日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2023」をもとに筆者編集

考えてみれば、長時間勤務・満員電車が当たり前になっている日本で生産性が上がらないのは当然だと考えます。朝から1時間近くかけて満員電車に揺られ、仕事を始める時には既に疲労が蓄積されている状態になっているわけですから、2Kgの重りを背負わされながら、海外の人と100m走を毎日競わされているのと同じです。

人手不足を補うためにキャリア採用も更に活性化していますが、やはり中途採用の人が成果を出すための環境やプログラムが整っている組織は強いです。それは、日常業務が誰でもできるような形でプロセス化されているとか、時間ではなく成果で評価できる仕組みになっているとか、同質性によるムラ社会で新しい人に対してもWelcomeな雰囲気があるとか、そういう1つ1つの小さなところにあります。これも偶然的にそうなるものではなく、組織を作る側が意図して設計しているかどうか、だと捉えています。

時短勤務の人が「私のために迷惑かけてすみません」と周囲に申し訳ない気持ちになる、あるいは申し訳なさそうにしないと居心地が悪い、というのもおかしい。「1億総活躍社会」どころか「1億総疲弊社会」に向かっている気がしてなりません。

それくらい「ダイバーシティ経営」のもと、多様な人を集めてくるよりも、多様な人がお互いを尊重して、変な気遣いや居心地の悪さなく、本来の仕事の成果を出すところに集中できる職場環境を作れるか、ということが大切です。

排他的で一部の人しか活躍できない設計になっている「旧態依然の職場」には、事業を継続するための優秀な人が集まってこないという最大のリスクがあります。

「変える必要性は分かっているけど、やり方が分からない」と言っているうちに、そんな組織に嫌気が指している人がまた一人生まれているはずので、あらゆる事情を持った人でもパフォーマンスを発揮できる職場環境作りの優先順位を上げることが求められていると考えます。

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林 裕也@30代民間企業の育児マネージャー
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