断片的なものの社会学/岸政彦
「誰にも隠されていないが、誰の目にも触れない」読み始めてすぐにやってきたこのワードにハっと心が動いた。あぁこれはわたしが日々の中で大事にしていることのひとつ。この景色も、この気持ちも、この匂いも、色も、肌触りも、今、わたしや一緒に味わったひとだけの秘密なのだと感じるとき、贅沢な時間が流れる。誰にも自慢しなくても、知られなくても、生きてるって感じる。ときに「私を見て」と声を上げ、ときに誰の目にも触れないところで幸せを見つける。後者の瞬間は、この世で最もロマンチックだ。世界は小さな小さな破片の集まりなのだから。
一言でも、心がハッとなったなら手に取ってみてほしい。わたしもこの本を友人に勧めてもらった。どうもありがとう。
深く、しっかり息をして/川上未映子
いつかまた会える。これも素敵だけれど、今、あなたに会いたい。これはもっと特別な気持ちだ。いつかなんて、ない。今しか、ない。それだけが、今のわたしを支えているのだ。未来ではきっと会える、来世でもきっと会える、でも、今を共有することはもっと重要で肝心なこと。
2月は川上未映子さんの小説を読む。楽しみです。
ののはな通信/三浦しをん
2人の少女が大人になり、歳をとり、女性になっていく、その過程の文通をのぞかせてもらった。おそらく、わたしも学生時代の青春のほとんどの記録が文通の中にある。何十分後かには休み時間で話せるのに、わざわざ先生の目を盗んで授業中にこっそり回した手紙、休み時間に隣のクラスに行って交換した手紙、毎日毎日手紙を書いた。年賀状も暑中お見舞いも、誕生日もクラス替えも卒業のときも。恋、友情、勉強全ての悩みを友と共有したことを思い出して、なにひとつ自分だけでは乗り越えてこなかったことを痛感する。この物語の中のふたりの少女の、女性の、人間の、瞬間の煌めきが詰まった命の物語だった。
それから単行本はおそらくもう出版されていないようだが、単行本の装丁が本当に本当に可愛かった。古本屋さんで出会えたこと、本当にありがとう。
ミライの源氏物語/山崎ナオコーラ
「光る君へ」の放送が始まったこと、星のや京都での歌詠みの体験で古典文学に興味を持ったことをきっかけに手始めに読んだ一冊。あっっという間に読めてしまった。高校時代の古典の授業を思い出し、こんな登場人物いたな、と思いながら読んだ。そしてタイトルの通り、物語の非常に細やかで重要な部分を現代の風潮に合わせて痛快に意見しているナオコーラさんのテンポの良さと共感ができる中身。長く読まれる文学だからこそ、こうしていろんな解釈がこれからも生まれてくるのだと思う。面白かった。
ルッキズム、マザコン、不倫、エイジズム、マウンティング。指摘されているかどうかだけで、今も昔もそんなに変わらないのかもしれない。紫式部がそんなこと考えていたかどうかは分からないけれど。源氏物語は初めて!という方でも面白いと思います。
kindleで読むことも少しずつ慣れてきましたが、やっぱりわたしは本の装丁の紙質やデザイン、色合い、行間、本によって少し異なる書体、ページをめくる作業が好き。紙の本で読めるときには紙で読もうとやっぱり思うのでした。